「一日中コロナ情報が気になる」で落ち込んでいる人へ
テレビが扱う「膨大な情報量」
「コロナうつ」といった言葉が使われるようになって久しい。「うつ」とまでは言わなくても、この半年、気づけば新型コロナウイルスのことを考えてしまう。話してしまう。関連の情報に耳を傾けてしまう。そんな人が日本中にいることだろう。
実際には日々の感染者数の推移も、ワクチンの開発状況も、ほとんどの人の日常における行動には関係がない。個人として気を付けること、やるべきことは変わらないからだ。残念ながら急に特効薬が近所のドラッグストアで販売される、といった情報はない(あればフェイクニュースである)。
しかし、テレビをつければ四六時中「コロナ」の「最新情報」が流れている状況が国民に影響を及ぼさないはずがない。そのせいで気が滅入っている人や、常に不安な気持ちになっている人も少なくないはずだ。
阪神・淡路大震災、東日本大震災の時と現在とでテレビが扱う量を比較すると、いかに現在が特殊な状況かわかるかもしれない。
震災については発生から、新型コロナは緊急事態宣言から約5週間後の平日、それぞれのテーマを扱った番組がどのくらい放送されていたかをテレビ欄をもとに見てみよう(5週間後と設定した理由は、「1カ月」といった節目のタイミングでは自然と関連の報道が増えるので、少し時期をずらしてみた)。かなり大雑把な比較ではあるが、この四半世紀でどれだけ状況が変化したかを知るための参考にはなるはずだ。
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阪神・淡路大震災(1995年1月17日)から5週間後のテレビ欄
まず阪神・淡路大震災(1995年1月17日)から5週間後、1995年2月23日のテレビ欄。震災関連の見出しが入っている番組名は以下の通りである。
▼NHK 計:5番組
「おはよう日本」
「イブニングネットワーク」
「ニュース7」
「クローズアップ現代」
「ニュース11」
▼日本テレビ 計:3番組
「ズームイン!!朝!」
「ニュースプラス1」
「きょうの出来事」
▼TBSテレビ 計:2番組
「ザ・フレッシュ」
「筑紫哲也NEWS23」
▼フジテレビ 計:1番組
「スーパータイム」
▼テレビ朝日 計:1番組
「ニュースステーション」
▼テレビ東京 計:計1番組
「THIS EVENING」
あくまでもテレビ欄の内容部分に震災関連の話題が含まれているかという観点なので、実際にはこれら以外の番組に含まれている場合もあるだろうが、そもそもお昼の情報番組が少ないうえ、夕方のニュース番組も現在のように長時間のものがないのでこういうことになる。各局を合計しての番組数は13番組。仮にそのすべての放送時間が費やされたとしても13時間ほどである。
東日本大震災(2011年3月11日)から約5週間後のテレビ欄
それから16年後、東日本大震災(2011年3月11日)から約5週間後の4月18日はどうだったか。震災以外に原発事故関連、電力不足問題などを取り上げたものも含めてみた。
▼NHK 計:6番組(日中の国会審議は含まない)
「おはよう日本」
「あさイチ」
「ニュース7」
「ニュースウオッチ9」
「Bizスポ」
「時論公論」
▼日本テレビ:計:3番組
「スッキリ!!」
「news every.」
「NEWS ZERO」
▼テレビ朝日 計:5番組
「やじうまテレビ!」
「モーニングバード!」
「ワイド!スクランブル」
「スーパーJチャンネル」
「報道ステーション」
▼TBSテレビ 計:5番組
「みのもんたの朝ズバッ!」
「はなまるマーケット」
「ひるおび」
「Nスタ」
「NEWS23クロス」
▼テレビ東京 計:2番組
「FINE!」
「ワールドビジネスサテライト」
▼フジテレビ 計:4番組
「めざましテレビ」
「とくダネ!」
「知りたがり」
「スーパーニュース」
全局合計で25番組となる。ゴールデンタイムを除くとほぼすべての時間帯でどこかの局が震災関連情報を伝えていた。とはいえ、夕方の時間帯はまだドラマの再放送なども各局で放送されている。
そして、現在。
緊急事態宣言(4月7日)から約5週間後のテレビ欄
緊急事態宣言(4月7日)から約5週間後の5月15日の各局のコロナ関連番組は以下の通りだ。
▼NHK 計:15番組
「おはよう日本」
「あさイチ」
「新型コロナ最新情報」(午前10時~10時30分)
「新型コロナ最新情報」(午前11時~11時15分)
「新型コロナ最新情報」(午後0時~0時20分)
「新型コロナ最新情報」(午後1時~1時20分)
「列島ニュース」
「新型コロナ最新情報」(午後3時~3時8分)
「新型コロナ生活情報」(午後3時8分~3時28分)
「新型コロナ最新情報」(午後4時~4時20分)
「ニュースシブ5時」
「ニュース7」
「首都圏情報 ネタドリ!」
「ニュースウオッチ9」
「ニュースきょう一日」
▼日本テレビ 計:5番組
「ZIP!」
「スッキリ」
「情報ライブ ミヤネ屋」
「news every.」
「news zero」
▼テレビ朝日 計:5番組
「グッド!モーニング」
「羽鳥慎一モーニングショー」
「大下容子ワイド!スクランブル」
「スーパーJチャンネル」
「報道ステーション」
▼TBSテレビ 計:5番組
「あさチャン!」
「グッとラック!」
「ひるおび!」
「ゴゴスマ」
「Nスタ」
▼テレビ東京 計:2番組
「Newsモーニングサテライト」
「ワールドビジネスサテライト」
▼フジテレビ 計:6番組
「めざましテレビ」
「とくダネ!」
「バイキング」
「直撃LIVEグッディ!」
「Live News it!」
「Live News α」
24時間、テレビ画面に「コロナ」の文字
各局の合計は38番組(単純に時間を足せば61時間を超える)。阪神・淡路大震災や東日本大震災の時から見ても格段に増えているのは一目瞭然だろう。
午後8時~9時を除けばどこかのチャンネルで必ずコロナ関連の情報を扱った番組が放送される事態となっていたことに加え、NHKではあらゆる時間帯に「新型コロナ関連情報はこちら」とQRコードが表示されていたので、実質的には24時間「コロナ」の文字が画面に出ていたことになる。
いまだに高齢者の多くがテレビを主な情報源にしている点を考慮すれば、まさにコロナ漬けのような状況がこの半年ほど続いているといっても過言ではないだろう。各局ともこんなことをやりながら「コロナうつが心配」などと言うのはいささか矛盾した行動にも見える。
言うまでもなく、こうしたテレビからの情報に加えて、ネットニュースやSNSでも新型コロナ関連の情報が常時流れてくる。
よほど意識して情報をシャットアウトしない限り、気が滅入らないほうがおかしいと言えるかもしれない。
心配するのは1日1時間だけでいい
こうした状況にどう向き合えばいいのか。一つのヒントを示しているのが、「がん哲学外来」を創設した医師、樋野興夫氏の言葉だ。がん患者や家族が抱える悩みや不安に対して、樋野氏は答え続けてきた。
相談者である患者の多くが口にするのが、再発への不安だという(以下、引用は樋野氏の著書『がん哲学外来へようこそ』より)。
「外出している時は比較的平気でも、自宅では考えるのをやめられなくなる」
「時々不安の波が押し寄せてきて、たまらない気持ちになります」
もちろん、そうした不安を抱えるのは当然だ。その気持ちは痛いほどわかる。
しかし、再発が起きるかどうかは、いくら考えても、心配しても誰にも分かることではない。ではどうすべきか、樋野医師はこう綴っている。
「日常生活における『がんの優先順位』を下げることです。
家にひきこもって、がんのことを心配する時間は、24時間のうち1時間あれば十分です。できれば、さらにその時間を少なくして、顔を洗うことや歯を磨くことと同じレベルの生活習慣くらいにまで、優先度を下げられるといい。これならば、起きて生活するうちのひとときに過ぎません。(略)
考えても分からない悩みを問うのを止めるということです」
樋野医師のアドバイスのもと、行動を変えることで救われていった人も多くいる。たとえばある男性患者は、がん患者や家族が経験を語り合うカフェのボランティアスタッフの一員となった。そのことで関心が外へ向かうようになり、表情も和らいでいったという。
もちろん、がん患者の抱える不安と、コロナに対するそれは異なるだろう。しかし、1時間と言わず、
「コロナのことを考えるのは1日〇分だけ」
としてみてもおそらく実生活に問題は生じない。
溢れるコロナ情報で気が滅入る方は、試してみてもいいのかもしれない。