60代家長が20代ベトナム妻と再婚で… 群馬「和牛農家」の大混乱
出稼ぎから婚活へ…
そんな中、叔父の元に畜産協会から「ベトナムで畜産の指導をやってくれないか」という依頼が舞い込んできた。ベトナムには昔から畜産業のノウハウがなく、これまで牛肉を大量に輸入してきた。大きな貿易赤字となっている牛肉輸入を減らしたいから、現地で畜産を教えてほしいというのだ。
提示された年俸は日本円にして3千万円。和牛ビジネスで得られる収入をはるかに上回る好待遇に、一族みんなが喜んで「行ってきなよ!」と叔父の背中を押した。それが悪夢の第一歩になるとはつゆ知らず……。
ベトナムに渡った叔父は、現地で熱心に畜産の指導をした。高収入を得ながらの社会貢献……この時ばかりは一族の目にも叔父は誇らしく映ったことだろう。だがある日、ベトナム行きを提案した畜産協会から「独り身なんだったら、ベトナム人の女性を紹介するよ」と言われ、いつからか叔父の出稼ぎは婚活へとすり替わっていた。
叔父の婚活は順調に進み、2018年、自分より40歳ほど年下の25歳ベトナム人女性と再婚。翌年に男児も生まれた。再婚に際し、叔父は自分の妹たちより先に、甥っ子であるAさんに報告をした。“嫁いでよそ者になった”妹より、優先すべきは男の肉親という考えが残っているためである。遅れて再婚の事実を知らされた姉妹たちは、「Xにビジネスを継がせると言うから家督制度を認めたのに!」と大激怒。この再婚が決定打となり、叔父は完全に親族から孤立した。
さらに、叔父はAさんに対して「親族で唯一Xと繋がっているお前が、息子に再婚の事実を伝えてくれ」と言い出した。
期せずして重大な任務を担ってしまったAさん。「話がある」と言って、自宅近くにあった焼き鳥屋にX君を呼び出した。店は地下1階にあり、今どき珍しく携帯の電波が届かない空間であったことを、なぜか今も思い出すという。
「君の父親が再婚するらしい。相手はベトナム人で、君より年下だそうだ」
そう告げられたX君は、「そうなんだ。もう親父とは縁を切ったし、勝手にすればいいよ」と平静を装っていたが、タバコを持つ手は震えていたという。
その一件のあとX君は行方をくらまし、Aさんは今も彼の消息を知らないそうだ。
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