60代家長が20代ベトナム妻と再婚で… 群馬「和牛農家」の大混乱

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「25歳のベトナム人と再婚する」――会社員のAさん(32歳)が60代の叔父からそう告げられたのは、2018年の夏のことだった。

 Aさんは群馬県で戦前から広大な土地を持つS家の分家である。祖父の代で農地改革がありいったんは土地を国家に買収されたが、生真面目だった祖父は寝る間も惜しんで汗水流して働き、再び土地を増やしていった。稲作、葉タバコ、とうもろこしなどいくつかの作物ビジネスを経て、最終的に行きついた畜産業で見事大当たり。BSE(狂牛病)が問題となり和牛需要が高まった2000年代には年商数千万円をたたき出し、ひと財産を築いた。

 本業以外でも地元のショッピングモールに土地を貸して年間数百万円もの不動産収入を得たり、土地が合同庁舎の建設予定地となり1億円で買収されたりと、地元で「S家」といったら誰もがその名を知る名門家系として通っていた。

 そんな一族のカリスマ的存在だった祖父が、2012年にこの世を去った。様々な問題を残して……。

家督制度が健在

 群馬は、知る人ぞ知る和牛の名産地である。EUに輸出できる牛肉は群馬と鹿児島の特定の施設のみという、世界的に見てもブランド価値の高い牛を飼育している。中でもS家の牛舎では、数々の賞を受賞し、高値で精子の販売が行われるほどの高品質な牛たちが飼育されていた。

 牛舎の仕事は体力勝負である。毎日、夜中から朝まで牛の世話を行い、出産時には24時間体制で立ち会わなければならない。旅行も行けず、子どもの運動会も見に行けず、祖父はあらゆることを犠牲にして牛たちの飼育に身をささげた。

 そんな祖父が築いた莫大な資産は、没後どう相続されたのか。遺言は残されていなかった。通常であれば、民法で定められた法定相続に則り配偶者が半分を相続し、残りの半分を子どもたちが均等に相続することになる。

 だが、S家のケースでは現行の民法は適用されなかった。明治31年に制定された旧民法の「家督相続」がいまだに残っていたからである。

 Aさんいわく、「現在でも群馬の古い家系では、現法律を差し置いて家督制度が健在」なのだそうだ。というのも、S家のように一族でビジネスを行っている場合、生産設備、土地などの動産・不動産や運転資金としての現金は分割することができないため、跡取り息子が全て相続せざるを得ないという事情があるからだ。そこに田舎に根深く残る男尊女卑の風潮や、「よそに嫁いだ娘たちは自分の一族とは見なさない」という古(いにしえ)の価値観も相まって、長男が全ての遺産を受け継ぐというのは至って自然に行われていることなのだという。

 かくして、祖父の莫大な遺産は全て長男である叔父の手に渡ることとなった。

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