南シナ海で“米中衝突”の危険性 日本政府が今すぐやるべきことは?

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「鎖国」の管理貿易体制

 パンデミックを契機に米中間の緊張が高まっており、「武力紛争」にまでエスカレートする可能性があるとの懸念が生じている(7月21日付BusinessInsider)が、その主戦場は南シナ海である。

 米中両軍はこのところ頻繁に南シナ海で軍事演習を繰り返している。

 堪忍袋の緒が切れた米国の姿を見て、中国では専門家から「米国が南シナ海で中国が領有権を主張する暗礁などを奇襲攻撃して爆破する可能性がある」との警告が発せられるとともに、米国の金融制裁や有事に備えて、政府は中国の銀行に対して人民元の米ドルとの切り離しを求めている(7月29日付ZeroHedge)。

 「環球時報」は7月上旬、「経済の内循環」、すなわち鎖国を示唆する論調の記事を掲載したが、日本を巡る国際環境は17世紀前半を彷彿とさせるものがある。

 17世紀前半の南シナ海は「火薬庫」だったからである。

 当時の東南アジア地域は、欧州人の利権が錯綜する場であった。当初香料諸島を巡ってポルトガルとスペインが熾烈な争奪戦を繰り広げていたが、この争いにオランダとイギリスが加わり、東南アジア地域は欧州人による四つどもえの戦いが繰り広げられるようになった。

 日本からも徳川幕府が発行した朱印状(海外渡航許可証)を携帯した朱印船も貿易に従事していたが、荒ぶる戦場では江戸幕府の朱印状に自らの安全を保つ効果はなかった。日本と比較的良好な関係を保とうとしていたオランダ人との間で利害関係が原因で衝突が生じてしまったのである。平和な海を想定して出来上がっている渡航制度にとって、南の海はあまりにも危険となってしまったことから、江戸幕府は明の「海禁」制度にならい、いわゆる「鎖国」を実施することになる。

 しかし最近の研究で「鎖国」下の日本は自給自足経済ではなく、国内に必要とされる物資を幕府が責任を持って調達する管理貿易体制が確立されていたことがわかっている。

 江戸時代に比べて現在の日本は圧倒的なエネルギー多消費社会であるが、2017年の日本のエネルギー輸入依存度は90%と主要先進国中最悪である。

 戦後の日本のエネルギー供給は、「世界の警察官」を自認する米国の庇護により成り立ってきた。しかし、米中の対立で日本のシーレーンが「火薬庫」と化しつつある現在、日本は過度なグローバル体制を是正するとともに、政府主導によるエネルギー安全保障体制の整備が急務ではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月12日掲載

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