宅急便を再設計して新しい物流を作り出す――長尾 裕(ヤマトホールディングス社長)【佐藤優の頂上対決】
未来の物流へ
佐藤 マルクスは『資本論』で、物流と倉庫を「価値生産労働」として位置づけています。商業に対してマルクスは冷たいのですが、物流と倉庫には工場でものを作るのと同じような価値を見出している。やはり資本主義システムの中の血流なんですよね。
長尾 今回のコロナ禍で一番苦労したのは、飛行機が止まったことでした。通常、九州、北海道からの荷物は、一定量を飛行機で運んでいます。沖縄は船か飛行機しかなく、大半の輸送は飛行機です。当時、物流を維持するためにどうすればいいのか、日本航空と相談し、複数路線で飛行機をチャーターしました。そして人を載せずに荷物だけを運んでいただいた。この連携は非常に大きかったと思っています。
佐藤 これも大きく話題になりましたが、22万人の従業員に見舞金を支払われました。
長尾 社員には原則5万円で、パートタイムの方には契約時間等に応じて支給しました。やはり業務負担が非常に大きくなりましたから。
佐藤 コロナの感染リスクを感じながら、働かざるを得なかった。感染拡大時には、どんなところに留意されていましたか。
長尾 基本的なことですが、まずは日々の手洗いや消毒、そして検温を徹底する。熱があったり体調が悪かったら、必ず休んでもらうということですね。ただ当社の社員は、責任感が強いので、どうしても頑張ってしまうのですよ。
佐藤 自分が休むと穴が空くのが耐えられない。
長尾 だからこそ、絶対に休めるようにしなくてはいけないと考えました。また重症化リスクの高い年配の方や何らかの既往症を持っている人などは有給で休めるルールを定め、休みやすい環境を作りました。
佐藤 でも、休むと戦力ダウンになる。そこはどうしたのですか。
長尾 人の配置を従来の地域の拠点単位の考えではなく、もうすこし広い範囲で調整できるようにしました。また本社から応援も出しました。緊急事態宣言の時には、東京の銀座や丸の内などのビジネス街は荷物が減りましたので、そこから住宅地の豊洲や世田谷などへ配置調整しました。
佐藤 なるほど、リモートワークでオフィス街から人が消えたからですね。そうした臨機応変の対応に加え、新しいサービスも始められて、このコロナは一つの転機になると思いますが、今後の物流はどのように変わっていきますか。
長尾 ドローンや自動運転での配送という可能性もありますが、そう簡単ではありません。その中で高速道路上の自動運転化は早く進めるべきだと思っています。また、いま進めているのは、荷物の仕分けの自動化です。現在お客さまに届けるラストマイルの拠点となる営業所が全国3700カ所あり、そこへ荷物を供給する仕分けターミナルが70カ所あります。そのターミナルで正しく仕分けしないと、最後の配り手に適切に荷物を供給することができません。ですからこの拠点の品質や生産性を向上させることは非常に重要なのですが、宅急便の荷物は不定形なので自動化が非常に難しかった。
佐藤 そこは学生アルバイトの経験が活きるところですね。
長尾 ええ、そうです。いまではロボット化、機械化できる目途がかなりついてきました。いま2カ所で新しいコンセプトの仕分けターミナルをテストしていますが、従来と比較し大幅な省人化ができています。
佐藤 資料で拝見したのですが、羽田クロノゲートでは、面白い試みをされていますね。
長尾 ここは物流ターミナル拠点の一つですが、「付加価値機能エリア」があり、家電製品の修理やメンテナンス、医療用器械の洗浄などを行っています。モノを修理するのに、工場まで戻さず私どものターミナル内でやれば、時間も移動距離も短くてすみます。物流を単なるコストから、価値を生み出す手段にするという発想のもと始めました。
佐藤 我が家の本棚もそうした発想の一つですね。組み立ては配達してくれたヤマトの方にお願いしました。通販カタログには、ヤマトで組み立て可という印があります。このように今後は物流の強みを活かして、さまざまな企業とのコラボレーションもできますね。
長尾 いまの時代、何もかも自分で、というわけにはいきません。それよりは、適切な力や技術を持っている方々とうまく組んでサービスを作り出すことが重要です。その意味では、どの分野とも組める物流には、さまざまな可能性があると考えています。
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