ソフトボール・宇津木監督に聞く “速射砲ノック”誕生秘話(小林信也)

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上野由岐子投手は…

 今年67歳になるが、週末に練習に行けば、今も速射砲ノックを頼まれる。

「腰や手首は痛いけれど、ノックバットを握ると身体が自然と動くのよね」

 笑う宇津木監督の言葉を聞いて、ある光景を思い出した。取材に行った、ソフトボール教室での出来事だ。雨のため、体育館での講習になった。数百人のジュニアやご婦人たちと一緒に準備体操から軽いトレーニング。宇津木監督がステージ上でピョンピョン跳ね、みんなを元気に鼓舞した。ものすごい活力。だが、さらに驚かされたのはその後だった。午前の講習を終え控室の扉を閉じた瞬間、腰を押さえ、悲痛な顔でうずくまった。もう一歩も歩けないほど苦悶の表情だった。それなのに、自分を待ってくれている人の前に出たら、痛みなど一切悟らせずに動く。それが、宇津木妙子監督なのだ……。

 いまは日本ソフトボール協会副会長として普及活動やジュニア指導の先頭に立っている。ビックカメラ高崎のシニアアドバイザー、東京国際大学の総監督でもある。主に週末にはグラウンドに行くが、普段は各監督たちに任せているという。

 いまも日本代表の大黒柱・上野由岐子投手に話が及んだ。この夏38歳。さすがにピークは過ぎたのかと尋ねたら、そんなことはない、という。

「私が衝撃を受けた、あの時のジョイスより、上野の方が上でしょうね。疲れをどう抜くかは若いころと違う課題だけれど。ボールの威力にはいっそう磨きがかかっています」

 それを聞いてまた上野投手の投球が楽しみになった。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2020年8月6日号掲載

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