テレワーク「生産性向上」のウソ 過剰な成果主義が招く「大量クビ切り時代」
コロナの感染拡大を受け、多くの企業で一般的になったテレワーク。緊急事態宣言解除後はオフィスへ回帰する傾向もあるが、近ごろの感染者の急増を受け、再びテレワークに戻し始めている企業も多いだろう。しかし、テレワークは感染拡大の防止や出勤時間の節約というメリットを持つ一方、生産性を上げるのが難しいというデメリットも抱えている。
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「生産性は落ちる」
テレワークが話題になると、付随して語られるのが生産性の向上だ。“推進派”曰く、通勤や無駄な打ち合わせが減る分、生産性が上がると主張するのだが……。
博報堂出身で、退社してから19年もテレワークで仕事を続けるウェブニュース編集者の中川淳一郎氏は異論を唱える。
「テレワークでは生産性は落ちると思いますよ。上司の監視がなければやりたい放題となって、勤務時間に自宅でエロ動画を見ている人、絶対いますよ」
では、ご自身は19年もの間、生産性が落ち続けたのかといえば、
「私のような編集者、ライターは守るべき原稿などの締め切りがありますから、とりあえず目の前のことをやらなくてはならない。しかし、博報堂のような一般企業だと、“明日の午後イチくらいに頼む”というような適当な発注がまかり通る。間に合わなくても、1日や2日のずれは大したことないわけです。タイムマネジメントできない人の生産性が落ちるのは当然です」
人事ジャーナリストの溝上憲文氏は生産性の低下は数字にも表れていると言う。
「公益財団法人の日本生産性本部が5月に1100人を対象に行ったアンケートによれば、在宅勤務で効率が『下がった』と答えた人が66・2%を占めました。テレワークに慣れてきた7月の調査でも半数が下がった、と回答しています」
アンケートでは、自宅の通信環境の整備や職場でないと閲覧できない資料やデータがあることをテレワークの課題としているが、
「経理や営業など、会社でしか扱えないハンコや重要書類をベースに仕事をする人が在宅勤務を強いられたことも数字を押し上げたのでしょう。また、自宅では自己管理が難しく、集中力を維持できないことも一因。会社にいれば上司がいることで集中力を発揮しやすいですから」(同)
緊急事態宣言下の自粛期間において、自宅でのZoom会議に子どもが割り込んでくる、妻から小言を言われて仕事にならない、といったことは日常茶飯事だった。難儀を感じた人は少なくないはずだ。
リストラ候補者の顕在化
企業でも生産性の低下については、問題意識を抱えている。例えば、緊急事態宣言解除後、「原則出社に戻した」と報じられた伊藤忠商事の広報担当者は、
「段階的に社員の出社体制を戻していましたが、今の感染状況に鑑みて出社率50%を目途に在宅勤務をすることになりました」
とした上で、
「社員には在宅勤務に必要なリテラシーが備わっているとはいえ、テレワークによる生産性の低下は課題だと感じています。取引先によっては営業を対面でやらなくてはいけない場面もあります。例えば、弊社は生活消費関連の企業との取引も多く、スーパーやコンビニなどで取引先の従業員の方と同じ場所に立って、打ち合わせをする必要がありますから」
生産性の低下の理由の一つとして、テレワークでは“社内のコンセンサスを得るのが難しい”と指摘する声は多い。
「社内の問題解決や意思決定の局面では、テンポよく会話できないビデオ会議では良い議論ができず、判断スピードが落ちるのは否めません」(人材研究所代表で人事コンサルタントの曽和利光氏)
その点、30年以上にわたり「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)で侃々諤々の対面議論を繰り広げてきたジャーナリストの田原総一朗氏も同調するのだ。
「僕も『朝生』や『激論!クロスファイア』(BS朝日)をオンラインで収録して思ったのは、議論ができないということです。各々が言いたいことを言って、他の人がそれを聞くことはできても、誰かの話に割って入ることができなくなる。議論はやはり、Face to Faceでなくてはできません。それは誰しもが感じているのではないでしょうか」
企業においても、
「日常的な仕事はテレワークでできても、営業で売り込んだり、勝負をかけるビジネスシーンではFace to Faceでなければ熱意も伝わらないのでは。テレワークには、会社で過ごす時間が減って生活の質が上がるというメリットもありますが、時にはFace to Faceも必要です」(同)
オンラインだと話が弾まず、議論が盛り上がらない。それで良いアイデアが出るわけがあるまい。
あるいは、こうした問題はさておき、先進的な働き方をまず導入することこそ重要だ、これからはテレワークの時代だ、と主張する経営者もいるかもしれない。
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