世界王者「浜田剛史」を救った少年時代の「タオルボクシング」(小林信也)

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4回までもたない

 タイトル挑戦の当日、浜田は体調がひどく悪かった。

「どうしてこんな大事な日にと恨みました。後で思えばオーバーワークです。猛練習しか勝つ道はないと思い込んでいましたので」

 相手は39戦37勝35KOを誇る難敵アルレドンド。

「アルレドンドに勝つには、早い回でのKO以外にない。3、4回に勝負をかける」

 浜田はそう決めて試合に臨んだ。だが、1回10秒すぎに早くも浜田のパンチが王者をたじろがせた。

「当たったら案の定、打ち返してきました。アルレドンドのパンチは、妙なリズムで、すごく重かった。あんなパンチを受けたら、とても4回までもたない。もっと早く勝負をかけないと、やられる……」

 半ば焦りと恐怖を感じていた1ラウンド終了直前、目の前にアルレドンドの顔が見えた。少年時代の、タオル・ボクシングの感性が閃いた。

「いま打てば入る! と感じた瞬間、咄嗟にパンチが出ていました」

 浜田の右フックが顔面を捉え、王者が大きく腰を沈めた。浜田は間髪容れず連打。ゴング寸前、浜田の左ストレートで王者はキャンバスに崩れ落ちた。

 子どものころ培った勘と身体で覚えた動きが、浜田を栄光に導いた瞬間だった。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2020年7月30日号掲載

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