嘱託殺人被害者の知人女性が独白する「生き地獄」 安楽死はどう議論すべきか

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生きることに絶望

 くらんけさんは林さんだけでなく、大久保容疑者ともメッセージの交換を重ねた。

「スイスのライフサークルから幇助可能とされた私のことを、先生は“師匠”と呼んでいました。彼は呼吸器内科医として肺疾患で苦しみながら亡くなっていく高齢者をたくさん看取ってきたそうです。そして、患者から“死なせてくれ”と言われても何もできない自分を歯がゆく感じていた。とはいえ、林さんの自宅を訪れると知らされた時も、まさか嘱託殺人を計画しているとは思いませんでした。“うちで引き取る”という言葉もあったので、林さんを転院させて緩和ケアを行うのだと思っていました。ただ、去年の11月13日に彼女から“ライフサークルに支払った費用を教えてほしい”と尋ねられたんです。ほぼ同額なので、いまにして思えば、先生たちに渡す金額の参考にしたのかもしれません」

 その後、林さんと連絡が取れなくなったが、

「てっきり病気が原因で亡くなったのかと……。先生とのやり取りは続けていましたが、逮捕の1~2週間前に彼のアカウントが削除されたんです。復活したと思ったら“警察が来てお縄になったらどうしよう”“こんな妄想をするようになったら終わりだな”といったツイートが投稿されては削除される。その頃には、私のメッセージへの返信もなくなりました」

 まもなく逮捕された“容疑者”と、息を引き取った“被害者”の双方を知るくらんけさんは、

「先生が100%悪いとは思いません。もちろん、罪の意識もあったでしょう。いままで何もできないまま多くの患者さんを看取ってきたことへの罪滅ぼしという意味合いもあったはずです。しかも、林さんは生きることに絶望していた。ふたりの気持ちを考えたら、先生を有罪にしてしまって本当にいいのでしょうか」

 実は、林さんは、ジャーナリスト・宮下洋一氏のツイッターアカウントにも、18年4月にメッセージを送っている。

〈ALS患者です。発症して7年になります。体は動きません。食べることも話すこともできないけど、人工呼吸器は着けていません。視線入力のPCで書いてます。ディグニタスでの安楽死を受けたいと考えていますが、付添い人が必要です。付添い人が自殺幇助罪に問われるか?という問題にぶち当たっています。どうすればそれを判明できるか、何か助言を頂けますか?裁判を起こすしかないのでしょうか?〉

 宮下氏は17年12月に、世界6カ国の安楽死事情を詳細に取材したルポ作品『安楽死を遂げるまで』を上梓しており、林さんも読者のひとりだった。メッセージにある“ディグニタス”は、この本に登場するスイスの自殺幇助団体である。

「林さんに限らず、私のところには難病の患者さんから多くのメッセージが届きますが、返信は一切していません。私は医師でも弁護士でもなくジャーナリストなので、彼らに助言をする立場にないからです。一方で、たとえ医師であっても、安楽死が認められていない日本で今回のような事件を起こせば罪に問われる。それは当然のことですし、これまで安楽死を取材してきた私としても、酷い事件だと感じています」(宮下氏)

 安楽死を容認するオランダには“かかりつけ医制度”があるという。

「つまり、長らく患者を診てきた医師が、患者の容態を考慮して、また、その価値観や死生観までも理解した上で最期を看取るわけです。そうすることで残された家族も納得する。今回の事件では、逮捕されたふたりの医師がどこまで林さんのことを理解していたのか疑問が残ります。少なくとも、彼女のご遺族は彼女の死を悔やんでいる。安楽死は本来、家族が同意し、誰も傷つかない状況が理想です。その意味でも、今回の事件は安楽死と呼ぶに相応しくありません」

 実際、林さんの父親も容疑者への憤りを隠さない。

「ALSと診断された時、優里はただただショックを受けていました。ベッドから転げ落ちて、自分で起き上がれなかった時など私に抱きついて号泣していた。それでも、優里から弱音を聞いたことはありませんでした。安楽死については全く聞かされてないし、相談を受けていたら思い留まるように説得した。犯人のことは……、許せないです」

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