日テレ「リモートで殺される」、なぜ敢えて「続きはHuluで」商法をやったのか

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Huluが直面する状況

 番組ソフトによる、地上波から関連動画サービスへの誘導のこの“過激化”を理解するためには、まずは地上波を巡る概況を押さえるべきだろう。

 今年4月にビデオリサーチ社が首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の1都3県)の約1500人に行った「視聴量調査」によれば…

*2月24日週から、前年同週比較で視聴量の増加が顕著
*4月13日週では男女13~19才・男性20~34才・35~49才で150%以上の視聴量が増加…となっている。

 このコロナ禍、特に「緊急事態宣言」期間前後の「ステイホーム」の中、テレビ視聴量が増加するのは多くの人の想像通りだった。

 しかし、その「視聴量」の増加に伴って、地上波は利益を上げることができたのだろうか。

 今年の7月、コロナ禍によって中止続きだった民放キー局(日本テレビを除く)の社長定例記者会見が約三カ月ぶりに再開した。民放キー5局とも4、5月の「ステイホーム」期間中は視聴者の在宅率が上がり「視聴量」は上記のように増加したものの、CM収入は大ダメージとなる衝撃的な数字を記録したとの報告がその会見で行われた。以下が民放キー5局の2020年5月のスポットCM(番組に関係なく、局が定める時間に挿入されるCM枠内でCMを放送する広告収入のこと)の昨年度同期との対比報告である。

・日本テレビ 未発表
・テレビ朝日 58.7%
・TBS 59%台
・テレビ東京64.7%
・フジテレビ57.5%
※前年同期比

 テレビ局は1%~2%のCM費増減でも大騒ぎとなる。それを考えれば、上記数字は衝撃的なものだったと思われる。

 次に動画配信サービス自体のマーケット概況とHuluが直面している状況を見てみる。

 株式会社『ICT総研』が2019年2月に行った「2019年 有料動画配信サービス利用動向に関する調査」の概要を参考にすると、

1.有料動画配信サービス利用者数は1,750万人、2021年に2,360万人へ拡大

2.有料動画サービスを利用していると回答した847人の中で、主に利用する動画サービス名を聞いたところ、有料サービス最多利用率はアマゾン・プライム・ビデオが66%でトップ、Netflixが21%で2位、3位が19%でHulu

 上記『ICT総研』のデータに関わらず、他の幾つかのデータを参照すると、「動画配信サービス会員数1位」は圧倒的に「アマゾン・プライム・ビデオ」であり、次いで「Netflix」、3位が「Hulu」という順位になる。

 総じて、動画配信サービスのマーケットは「拡大の一途」であるものの、Huluは世界の2強に現状、どうしても及ばない。

 こうした動画配信サービス概況に、前述した「今までのやり方ではマネタイズが困難な状況に陥っているテレビ業界」を合わせて考えてみれば、今回の地上波「リモートで殺される」からHuluの「リモートで殺される 殺人の裏編」への誘導・過激化の背景は理解できる。

 動画配信に加え、配送料無料や音楽コンテンツの聴き放題サービスなど多様なサービスが含まれることからコストパフォーマンスが高いと認識され、利用者拡大一途の『アマゾン・プライム・ビデオ』。海外コンテンツの豊富さに加え、オリジナルコンテンツの充実ぶりを謳う「Netflix」。

「アマゾン・プライム・ビデオ」には及ばないとしても、当面、Huluのすぐ上にいる「Netflix」との会員獲得競争に打ち勝つためには、テレビ放送と連動できるというアドバンテージを生かす戦略を敷くことが必須であり、また現状の会員数を踏まえれば「Netflix」と会員数競争というフィールドに立てる民放関連動画サービスは、Huluしかない。

 一方、日テレ側からみるとこれだけCM広告料が激減する中、有力な代替案が出せない現状では、Huluとの連動による新しいビジネスモデルを模索していかざるを得ない。

 今回の地上波「リモートで殺される」からHuluの「リモートで殺される 殺人の裏編」への誘導にはそんな背景と必然性があったのだろう。

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