「両利きの経営」で日本にイノベーションを起こせ――入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)【佐藤優の頂上対決】
「知の探索」と「知の深化」
入山 私が最近よく話すのは、「Intrapersonal diversity」の重要性です。これを「個人内多様性」と訳しましたが、まさにインテリジェンスの世界がそうなのですね。多様な経験や知見を持っている人のほうがイノベーティブになりやすいという研究があります。一見、関係のない知見でもマルチで持っていると、それを組み合わせて新しいものが生み出せる。
佐藤 そこは入山さんが広めている「両利きの経営」に直結する話でもありますね。
入山 そうです。両利きの経営は、「Ambidexterity」と言って、海外の経営学では当たり前の概念です。イノベーションには、新しいアイデアを生み出す必要がありますが、そこには一つの法則がある。新しい着想やアイデアは、常に既存知と既存知の組み合わせで生まれます。
佐藤 まさにiPhoneがそういう製品ですね。
入山 そうです。ただの組み合わせです。でも一人の人間にはどうしても認知の限界がある。また、同じ業界に長くいたり、新卒一括採用、終身雇用で同じ人たちに囲まれていると、目の前にある知と知の組み合わせは終わってしまっているんですね。だからイノベーションが生まれない。
佐藤 それが日本の問題ですね。
入山 そうすると、遠くのものを幅広く見ることが求められる。経営学では「Exploration」、私はそれを「知の探索」と言っていますが、それによって知と知の新しい組み合わせを作る。そして儲かりそうだったら、そこは深く掘って収益化する。こちらは「Exploitation」、私は「知の深化」と訳していて、この探索と深化のバランスが重要です。
佐藤 でもどちらかに偏ってくる。
入山 儲けなきゃいけませんから、会社の本質は深化の方です。
佐藤 そちらへ定向進化する。
入山 だから「知の探索」が重要だと私のような学者が言うのは簡単ですが、実際には大変なことで、新しい組み合わせは失敗も多い。会社は効率化も必要だし、利益も確保しなければなりませんから、どうしても深化に偏ってしまう。
佐藤 短期的にはそれでいい。
入山 そうです。でも長い目で見ると、新しいことをやろうとする力が失われていく。
佐藤 展望が必要になりますね。
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