「両利きの経営」で日本にイノベーションを起こせ――入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)【佐藤優の頂上対決】

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会社をうまく潰す

入山 佐藤さんからは、いまの日本はどのように見えますか。

佐藤 キルケゴールが『死に至る病』の中で「非本来的絶望」ということを言っています。絶望しなくてはならない状況だけれども、その現実を意識していない。この一番良くない状態に日本はあると思います。

入山 それは政治面ですか、経済面ですか。

佐藤 全般的に、です。教育も含めて。日本の政治は諸外国に比べてそれほど悪いわけではないし、経済でもイノベーションで面白いことをやっている企業はあると思いますが、どこもギリギリの状態で、自分たちがどこにいて、何をしているかがわからなくなっている。

入山 なるほど、日本企業は本当に危機にありますよ。

佐藤 日本は、数で言うと99%以上が中小企業で、GDPベースだと7割を占めていますね。今回のコロナでは、中小を助ける形でお金をどんどん投入していますが、ゾンビ企業を数多く誕生させることにならないか、そこを危惧しています。

入山 まったく同感です。私もきちんと会社を潰せ、と言ってきました。また、会社だけでなく大学もいくつか潰したほうがいいと思っています。

佐藤 機能していない私立大学は潰すくらいの発想で変革を迫っていい。ただ企業の場合、特に中小企業は、借金をする際に経営者が個人で連帯保証しているところが多い。

入山 そこが問題です。

佐藤 その仕組みのために、個人で借金を背負い、首を吊らなきゃいけなくなる。でもそこを切り離して株式の範囲だけで責任を負うようにすれば、会社は潰せます。

入山 まさにその通りで、日本が一番下手なのは、会社の潰し方です。この十数年間、海外でも起業ブームがあり、一方で多くの企業が退場していきました。いま世界の時価総額トップ10は、グーグルやフェイスブックなど、創業して20年くらいの会社ばかりです。平成元年の時点では、トップ10に日本企業がたくさん入っていましたが、いまはトヨタが40位台にいるくらいで、惨憺たる有様です。

佐藤 しかも過去の会社がそのまま存続して、新陳代謝がない。

入山 やはり時代遅れになった企業をうまく潰して、ベンチャーを生み出す社会にしていかないといけません。海外の経営学でもそこは重視されていて、「リアル・オプション理論」というものがある。簡単に言えば、何かリスクがあった時には、損切りできたほうがいい。それができれば身ぐるみ剥がされないから、新しいことをやろうという気になります。

佐藤 倒産法は日本にもありますよね。

入山 世界で見てみると、日本の倒産法はそんなに悪くないんです。

佐藤 潰せるわけですね。

入山 法的には潰せる。でも法律以外のところで連帯保証などの慣習がくっついている。それともう一つ問題なのは、日本では会社を潰すと、そこにいる人のキャリアまで潰すことになってしまう点です。大企業も中小企業も、新卒一括採用、終身雇用制度ですから、倒産したり、クビになったり、あるいは起業して失敗すると、人生終わり、となる。

佐藤 そこはインテリジェンス機関が参考になるかもしれません。かつてのソ連のKGB――いまはロシアの対外情報庁――では、対外活動で偽装するとなると、5、6年はやります。

入山 長い。本物になっちゃう。

佐藤 そう、偽装して本物にします。ジャーナリストなら、タス通信社やノーボスチ通信社(いずれも当時)で何年も働かせる。これには二つ理由があります。まずジャーナリストに偽装して、記事が書けないとなったら、お前、何者か、ということになる。それともう一つ、諜報には必ず事故が起きます。私もそうですが、事故が起きて名前が晒される、するともう使えないわけです。その時に情報の仕事しかできないと、組織を恨むようになります。でも別の仕事ができるなら、深刻な事態にはならない。

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