米中対立激化で韓国「二股外交」の限界 国論分裂の先には「核武装」?

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 中国におべっかを使うのをやめて米国側に戻るか、逆に米国との同盟をうち切るか――。米中対立が日増しに厳しくなる中、韓国の国論が分裂した。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。

中立を掲げ滅ぼされたミロス

鈴置:「二股外交が不可能になった」と韓国人が頭を抱えています。「米中対立がここまで激化した以上、もう、米国は韓国の中立を許さない」との判断です。

 代表的な論文が月刊朝鮮2020年7月号の「韓国は強大国の立場から見れば弱小国に過ぎない――『ミロス談判』と岐路に立つ韓国」(韓国語)です。筆者はPACIFIC21ディレクターで、同誌定期寄稿家のユ・ミンホ氏です。

 この論文はペロポネソス戦争(紀元前431年―同404年)の最中の同416年、中立を標榜した小さな都市国家ミロスを、強力なアテネが攻め滅ぼした話から始まります。

 ユ・ミンホ氏はなぜ、ミロスがアテネとスパルタの間で中立を維持できなかったか、に焦点を当てました。抄訳します。

・当時、ほとんどのポリスはアテネかスパルタのどちらか一方を支持し、共に戦った。おカネや食糧などの貢物、軍人や船をはじめとする軍事物資の提供が支持を測る基準である。
・アテネとの交渉で、ミロスは中立を守ると約束する。アテネを排斥したり、害を加えたりしないと誓う。
・しかし、アテネの立場から見ればミロスは口先を駆使して生き残ろうとする機会主義者に映る。中立を守ると言っても結局、アテネに害を加える国と確信する。
・ミロスの中立の約束をアテネが理解したとしよう。他のすべてのポリスも、中立を守ると誓いながらアテネに「積極的に」同意しない先例となりうる。
・アテネからすれば、平時でもエーゲ海の平和維持の費用を(他のポリスから)もらわねばならない。スパルタとの戦争という困難な状況下では、さらに大きな直接的支援を受け取ってしかるべきだ。だから「中立」はアテネが望む答ではない。「我が方でなければ敵」なのだ。

 米中の衝突を、30年近く続いたペロポネソス戦争になぞらえる見方が世界で広がっています。2017年にハーバード大学のアリソン(Graham Allison)教授が『Destined for War』(邦題『米中戦争前夜』)を上梓したためです。

 一方、その大戦争のほんのひとコマである、2つの大国に挟まれた小国の滅亡に、韓国人は自らの将来を重ね合わせたのです。

米国は韓国を焦土化する

――確かに韓国は「ミロス」ですね

鈴置:米国の軍事力によって平和と繁栄を享受しながら、米中等距離外交を堂々と実践してきたのが韓国です。ただ乗りの典型的です。

 米中対立が決定的になった後の6月3日にも、イ・スヒョク駐米大使が「(米中の間で)選択を迫られる国ではなく、もはや我々が選択する国になったとの自負心を持っている」と述べました(「文在寅の懲りぬ『米中二股外交』 先進国になった!と国民をおだてつつ…」参照)。

 米韓同盟破棄や中国側への寝返りもありうると、露骨に示唆したのです。ここまで来ると裏切りです。

 ユ・ミンホ氏もこの発言に危機感を表明。そして、こんな無神経な外交を続ければ、米国はドル不足に陥れることにより、日本はモノの輸出規制によって韓国を攻撃すると警告したのです。

――現代のアテネたる米国は、韓国を滅ぼしはしないでしょうが……。

鈴置:「強い国は弱い国に対しやりたい放題する」のが国際政治の現実であり、最近は特にその傾向が強まった、とユ・ミンホ氏は書いています。韓国経済くらいは滅ぼすとの判断です。

 麗澤大学の西岡力・客員教授は2017年、米国の安全保障関係者から「我々が韓国から出ていく時は、韓国を焦土化してからだ」と聞かされたそうです。

 米韓同盟が消滅すれば、韓国が中国の傘下に入ることは確実。それなら中国が韓国の経済資源を利用できないよう、徹底的に破壊しておく――ということです。米国が韓国経済を滅ぼす際は、日本も加勢することでしょう。

懲罰は在韓米軍撤収

――「米中二股はもう無理」なら、どうするのでしょうか?

鈴置:保守は「近寄りすぎた中国から離れ、米国側に戻ろう」と言い出しました。7月13日に開かれた「韓中ビジョンフォーラム」でもそうした意見が相次ぎました。中央日報前会長の洪錫ヒョン(ホン・ソクヒョン)氏が理事長を務める「韓半島平和構築財団」が開催したシンポジウムです。

 中央日報が7月15日に内容を詳報しました。韓国語版も、要約された日本語版も「懸案ごとに米国か中国か選択しなくては…国益がカギ」との見出しが付いているので「二股外交の勧め」と勘違いしがちですが、参加者の主張は「米国側に戻ろう」で一致しています。

 議論の中軸はソウル大学のチョン・ジェホ教授の外交・安保に関する基調演説です。韓国語版からポイントを訳します。

・米国と中国は域内の国家に対し「我が方なのか、そうではないのか」と問いただし続ける。今のところ中国だけが、自分の側ではないと見なした時に経済制裁を加えるが、米国は制裁しない。だが、米中の戦略的な覇権競争が先鋭化すれば、米国も中国と同様に「懲罰」を下すことになって、ゲームは複雑化するであろう。

 そろそろ米国も中立を許さなくなる、との見方です。トランプ(Donald Trump)政権は在韓米軍の削減を検討しています。

 7月21日にはエスパー(Mark Esper)国防長官が「韓国と全世界での米軍のプレゼンスの調整を検討中」と語りました。APの「Esper says US considering troop ‘adjustments’ in South Korea」(7月22日)で読めます。

 全世界での米軍再配置計画の一環とされていますが、自分に従わない韓国への圧力に使うとも見なされています。そんな今、韓国が「中立」などと言い続ければ「懲罰」として米軍削減を言い渡されかねません。

 チョン・ジェホ教授は演説では削減問題に言及していませんが、韓国では危機感が高まっています。関係悪化による「削減」は「完全撤収」を呼び、さらには「米韓同盟の解体」につながるからです。さらに、その後に「焦土化」が続くかもしれないのです。

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