看板ホステスは87歳! 営業再開した「シオンの娘」に行ってみた
コロナ禍でドン底の「お水」の世界。そんな中、店をリニューアルオープンしたというから、驚きである。しかも、看板ホステスは今年で米寿、経営はかつて世を騒がせた、あの聖書研究サークルというのだから……。
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その店「シオンの娘」にオープン以来通う客が言う。
「ここの店は客を平等に扱うんだよ。昔、ジュリーが来たことがあったけど、彼、その時怒ったらしい。チヤホヤされず、他の客と同じ扱いだったから、と。ま、それくらい平等なんだ」
再オープンは七夕の日。その4日後、福岡市・香椎駅近くにある店を訪れた。
コロナ対策として、客は入店前に検温、消毒。30坪ほどの店内は座席を半分以下の10席に減らし、会話は透明なアクリル板越し、ホステスもフェイスシールドを着用という入念さである。
それでも、18時のオープン時にはまばらだった座席は、夜が更けるに連れて全て埋まる。21時、目玉のショーがスタートした。店内ステージにホステスが上り、ギターの演奏、フラメンコダンス……。そしてトリをつとめたのは、腰の曲がった、後期高齢者と思しき女性。「恋をするなら愛するならば男ごころも女のこころもとけて一つになっちまう~」。橋幸夫「恋をするなら」を朗々と歌いきると、客席は歓声と拍手に包まれたのであった。
色気はなし
「ホントは4月に再オープンする予定でしたが、コロナで延期に。やっとここまでこぎつけましたよ」
と言うのは、「シオンの娘」のママ・千石恵さんだ。
1970年代、悩みを抱えた若い女性たちが、「千石イエス」こと千石剛賢(たけよし)さんと始めた共同生活「イエスの方舟」。怪しげな宗教家が若い娘をかどわかし、ハーレム生活を送っている、と激しいバッシングを浴びた。実際は単なる聖書研究サークルだったが、各地を追われ、彼らが流れ着いたのが福岡県だ。研究の傍ら、生活費を稼ぐため、81年に博多で開業したのがこのクラブ。女性たちはみな店で働きながら今も変わらぬ生活を続ける。2001年に千石氏は死去。恵さんはその三女で、前出の看板ホステスは「イエス」の奥様・まさ子さん。御年87の今も“現役”である。
「博多のビルは老朽化。漏電の危険もありまして」
と恵さんが続ける。
「仕方なく去年、売りました。でも、店をやめようとは思いませんでしたね。私たちは聖書を学んでいます。聖書に『重荷を負う者は私のもとに来なさい』という言葉があるでしょ。ここでお客さんに日々の疲れを癒やしてもらうことは、『隣人愛』の実践なんですから」
成り立ちからして一風変わったクラブはスタイルもまた風変わりだ。ホステスは酒を飲まず、服装も地味。指名のシステムもない。「色気」の要素がまったくないのである。それで40年近く夜の商売を続けられるのだから大したもの。しかも今年5月には、県内の福祉団体に1千万円を寄付したというのだ。
「逆にそういうスタイルが良いのではないでしょうか。無理な酒代も指名料もかからないので、明朗会計ですし。私たちはみんな聞き役で、お客様の話に耳を傾ける。心が楽になったよ、との声をいただきます」
お値段は飲み放題で8千円ポッキリである。
とはいえ、見たところ、ホステスの平均年齢は40~50歳というところか。失礼ながら、いつまでこのようなスタイルが可能なのか。
「今の店は5年契約。行けるところまで行きます。その後のことはわかりませんが、隣人愛の実践だけはずっと続けますよ……」
時代をまたいでしぶとく生き残ってきた「シオンの娘」。
コロナ禍だからこそ、その素朴なスタイルへのニーズが逆に高まりそうだ。