法律を時代に合った形に作り変える――金丸恭文(フューチャー会長兼社長 グループCEO)【佐藤優の頂上対決】

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 コロナによってリモートワークは広まったが、日本の各種法令は、判子が必要な原本主義で対面が原則であり、自ずと限界が生じる。法律そのものも、制定時とは状況が変わっているのに、数多くがそのまま使われている。実はそれが日本の成長を阻害する要因となっているのである。

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佐藤 金丸さんは会社経営のほか、内閣府の規制改革推進会議の議長代理や未来投資会議議員、働き方改革実現会議議員などを務められ、日本社会の方向性を決めるキーパーソンだと思います。本日はいまの日本が直面している課題について、お話をうかがいにまいりました。

金丸 よろしくお願いします。

佐藤 まずは「失われた」と形容されることの多い平成の30年間をどのようにご覧になっていらっしゃいますか。

金丸 「失った」とはっきり言うべきでしょうね。受け身だと、責任主体がないですから。私が会社を作ったのは1989年で、平成は会社の歩みに重なります。当時、「日経ベンチャー」という雑誌はありましたが、起業は「独立開業」とか「脱サラ」と呼ばれていて、ベンチャーという言葉に、ポジティブな響きはありませんでした。

佐藤 世の中はバブルでしたから、会社を辞めるなんて、何かしでかしたんじゃないかと思われたのではありませんか。

金丸 1989年は日本経済の頂点ですから、そう思われたかもしれないですね。当時は、80年代半ばに3千万円台で購入したマンションの相場価格が、3倍の1億円を超えていました。でもさらに、そこから5倍になると言われた。ほんとうに狂乱のバブルとしか言いようのない時代でした。

佐藤 私が10年ほど前に買った中古住宅も、昔の登記から推定すると、バブルの頃には購入価格の5倍近い値段がついていました。

金丸 この年は6月に天安門事件が起きて、11月にはベルリンの壁が崩壊します。絶対に壊れることはないと思われていた壁が市民の手により壊されていく映像はほんとうに衝撃的でした。起業したのはその11月です。そして年末には日経平均株価が史上最高の3万8915円になり、エコノミストたちは、来年は4万円、5万円が視野に入る、と平気で語っていました。ところが、年明けには株価が下がり、春に戻る、秋には回復すると言いながらも、いっこうに下げ止まらない。結局、日本社会が危機にあることを認識するのに、1993年くらいまでかかったと思います。

佐藤 私は日本のバブルを知らない のです。当時はモスクワで、ソ連が崩壊していくのを目の当たりにしていました。

金丸 世界が変わりましたね。中国は天安門で終わりかと思ったら、今に至る新しい中国の始まりでした。

佐藤 設立された会社はいまのIT企業の嚆矢になりますね。

金丸 それまで私は16ビットパソコンの開発をやったり、セブン-イレブンのPOS(販売時点情報管理)システムの開発をしたりしてきましたから、ハードウエアか、ソフトウエアのどちらを作るのかと、マイクロソフトの成毛眞さんやビル・ゲイツ氏など、多くの人から聞かれましたね。創業当時は小さな会社ですから、ソフトのみというわけにもいかない。

佐藤 どうしてですか。

金丸 徳島県にあるジャストシステムが作った「一太郎」というワープロソフトがありますね。

佐藤 私は今でも使っています。外務省の標準仕様でしたから。

金丸 日本人が作った、かな漢字変換だから痒い所に手が届くいいソフトなのですが、マイクロソフトの「Word」が膨大なマーケティング費用をかけて市場を奪うんですね。それを見ていたから、ソフトを作るだけでは難しいと思いました。そこで私はITと経営を両輪と捉えたメカニズムをデザインする、世界になかった深い技術を売りにした新しいコンサルティング会社を目指すことにしました。

佐藤 最初の大きな仕事は、当時の日本石油の全国1万店の顧客管理システム構築だったと、記事にありました。

金丸 そうです。企業の経営戦略をデジタル化していく魅力的な仕事です。例えば、物流コストを半減するという目標があると、無駄を省いたり、業者とコストダウン交渉をしますが、それには限界があります。後からITが登場するのではなく、最初からデジタルを使って、物流そのもののメカニズムを効率化しようと考えるのです。つまりは、経営とITを同時並行でデザインしていく。

佐藤 システムでなくて、メカニズムなんですね。

金丸 ええ、メカニズム、構造体として考えます。

佐藤 編集工学研究所の松岡正剛さんは、日本にはメカニズム論が欠けていると言っています。システムは有機体モデルだからごまかしが利きますが、メカニズムには通用しない。それは実際にコンピュータ開発をされていたことが背景にあるのでしょうね。

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