大谷翔平「逆方向ホームラン」誕生の意外なきっかけ 恩師が回顧するリトル時代(小林信也)

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 二刀流で本場メジャーリーグに新たな衝撃を巻き起こした大谷翔平。打者・大谷の象徴のひとつが“逆方向へのホームラン”だ。

 この打撃のルーツが少年時代にあったと聞かされたのは1年前だった。

「翔平が小6から中1になる春のころでした」

 教えてくれたのは、大谷が少年時代を過ごした「水沢リトル」の総監督だった浅利昭治さんだ。

「チームをやるからには潤沢に資金を集めて、子どもたちに思いきり練習させたいと考えていました。後援者のおかげで、ボールはたくさん用意していました」

 ところが、自信満々の浅利を悩ませる出来事に直面した。シート打撃で左打席に入った少年が、投手のボールをことごとくライト場外に飛ばしてしまう。ライトフェンスの向こうには川がある。ホームランが飛ぶたび、水しぶきが上がる。

「浅利さん、せっかくおろしたニューボールが一発でダメになります!」

 悲鳴がコーチから聞こえた。リトルは硬球を使う。革だから一度水に浸かると重くなる。試合形式など実戦練習にはもう使えない。

 言われなくても、見ていればわかる。浅利はジッとその光景を見ていたが、ついに耐え切れず、叫んだ。

「翔平! 引っ張り禁止だ。全部左方向に打つんだ!」

 怒鳴らない指導を心がけていた浅利には珍しい迫力だった。声に気づいた少年・大谷翔平は、打席から浅利を睨みつけた。翔平がそんな怒った顔を大人に向けたのは初めてだ。浅利は胸が痛んだ。が、これ以上、ボールを無駄にできない。

「川に入ったらボールがダメになる。レフトに飛ばせ。そっちなら、どんなに飛ばしても大丈夫だ」

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