「不動産政策失敗」で支持率低下「ポスト文在寅」で俄かに脚光浴びる「検察総長」
韓国の世論調査会社『韓国ギャラップ』が7月の第2週(7~9日)に行った調査によると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率は前週より3ポイント下落して47%となった。
大統領の支持率40%台へ下落
大統領の支持率は2月第4週には42%、不支持51%だったが、新型コロナウイルス感染対策を国民が評価してその後上昇し、総選挙(4月15日)前の4月第2週には支持57%、不支持35%と支持が不支持を大きく上回り、5月第1週には71%まで上昇した。
しかしその後、6月第1週62%、第2週60%、第3週55%、第4週52%、7月第1週50%、第2週47%と下降をたどってきた。
文大統領支持の理由では、依然として「新型コロナ対策」が29%と高く、「最善を尽くしている」7%、「福祉拡大」7%などだが、不支持の理由では「不動産政策の失敗」が25%と突出して高く、「経済・民生問題解決不足」11%、「全般的に不足」11%と続いた。
『韓国ギャラップ』は、7月17日に7月第3週(14~16日)に実施した調査の結果を発表したが、文在寅大統領の支持率は46%で前週より1ポイント下落、不支持も43%で同1ポイント下落した。
世論調査会社『リアルメーター』が朴元淳(パク・ウォンスン)市長死亡後の7月第3週(13~15日)に行った世論調査では、文大統領の支持率は同社の前週の調査より4.6ポイント低下した44.1%で、不支持は前週より5.2ポイント上昇して51.7%となり、不支持が支持を上回った。
支持率44.1%は曺国(チョ・グク)前法相の任命をめぐる騒動時(昨年10月第2週=41.4%)以来、9カ月ぶりの最低水準となった。
女性の支持率下落はマイナス7.9ポイントで、男性のマイナス1.3ポイントを大きく上回り、朴元淳市長のセクハラ問題が大きく影響しているとみられた。与党「共に民主党」の支持率も前週より4.3ポイント低下して35.4%となり、昨年10月第2週(35.3%)以来の低さとなった。
しかし、1期5年単任制の韓国大統領は、政権半ばから支持率が低下し始めるのは避けられない。
選挙で選ばれた盧泰愚(ノ・テウ)以降の歴代大統領では、残り任期2年の時点では盧泰愚12%、金泳三(キム・ヨンサム)41%、金大中(キム・デジュン)27%、盧武鉉(ノ・ムヒョン)27%、李明博(イ・ミョンバク)43%、朴槿恵(パク・クネ)42%で、文大統領の支持率はまだまだ歴代政権で最高だ。
だが、文大統領にとってこれからの2年間は、新型コロナの世界的な感染拡大による経済危機の影響で、失業問題や企業経営がより深刻化することが予測され、さらに支持率が低下するのは避けられない。
「複数住宅所有の公職者は家を売却せよ」
文在寅大統領の最近の支持率低下の最大の原因は、不動産政策の失敗だ。韓国ではマンション価格の高騰が続いており、不動産政策の失敗が支持率の低下に大きく影響した。
文政権が発足して以降、ソウルの中位クラスのマンション価格は52%上昇した。文政権が行った不動産対策は、7月10日に発表した対策を含めて22回に達するが、成果を上げていない。「7・10対策」では、複数住宅保有者の取得税や保有税、売却の時の譲渡所得税などを大幅に引き上げた。
盧英敏(ノ・ヨンミン)大統領秘書室長は7月2日、複数の住宅を保有している青瓦台の秘書官以上の高官に対して、1軒以外の住宅を処分するよう強く勧告した。
盧秘書室長自身もソウルの高級住宅地の瑞草区盤浦洞と韓国中部の忠清南道・清州市に住宅を持っている。最初は、人気の高い盤浦洞のマンションを売りに出したと言って驚かせたが、50分後に清州の住宅を売りに出す、と訂正した。
韓国では、ソウルの漢江南側の「江南地区」のマンションさえ持っていれば利益が生まれる、という「江南不敗」という言葉がある。盧英敏秘書室長の発表訂正自体が、この「江南不敗」の神話を裏付ける形となって、人々の失笑を買った。
丁世均(チョン・セギュン)首相も7月8日に各省庁に対して、自治体を含めて高位公職者の住宅保有の実態を速やかに把握し、複数の住宅保有者は1日も早く処分するよう措置を取ってほしいと指示した。
しかし、韓国政府は2012年に世宗市に政府庁舎の多くを移転したが、このためソウルと世宗市に住宅を所有し、教育問題もあって家族はソウル、本人は世宗市で生活という公務員も多い。公務員の私有財産権を侵害する可能性のある指示が成功するかどうかは不透明だ。
文政権の不動産政策は、不動産への課税強化などで投機を防ごうというのが主流だが、市場は規制の抜け道を探し、さらに不動産価格が上昇するという悪循環を繰り返している。住宅の供給を大幅に増やすなど、総合的な対策が必要だが、規制ばかり強化しても解決は難しいようにみえる。
次期大統領「3位」に躍り出た尹錫悦検察総長
先述の『韓国ギャラップ』の7月第2週の世論調査は、次期大統領に期待する人物の調査も行った。その結果は、第1位が李洛淵(イ・ナギョン)議員(前首相)で24%、第2位は李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事で13%、第3位が尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長で7%、第4位が安哲秀(アン・チョルス)「国民の党」代表で3%、洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員、金富謙(キム・ブギョム)前議員、自殺直前の朴元淳ソウル市長がそれぞれ1%で続いた。
世論調査会社『リアルメーター』が7月第3週に実施した調査では、李洛淵議員23.3%、李在明知事18.7%、尹錫悦検察総長14.3%となった。
李洛淵前首相は前回の28%から4ポイント下げたが、2位に11ポイント差を付け、世論調査では1年以上トップの座を維持している。与党陣営では最も有力な次期大統領候補だ。8月の党大会で与党「共に民主党」の代表に立候補しており、金富謙前議員、朴柱民(パク・ジュミン)議員の3人で代表の座を争うことになりそうだ。
李洛淵前首相が勝利する可能性が高いが、党規約で大統領選挙へ出馬する場合は1年前に代表を辞さなくてはならず、代表に選出されても来年3月までの約7カ月間というワンポイント登板になる。短期間でも李洛淵前首相が党代表への出馬を決めたのは、党内基盤が弱いだけに、党代表として支持基盤を拡大する狙いとみられる。
第2位につけた李在明知事は“左派のトランプ”といわれるように、いろいろ話題の多い人物だ。京畿道の新型コロナ対策が比較的うまくいったことや、基本所得制度の提唱、災難支援金など大胆な経済政策を打ち出した積極性が、有権者の支持を掴んでいる。
だがスキャンダルも多く、2018年の統一地方選で、亡くなった実兄を精神科病院に強制入院させるよう指示したことを討論会などの場で否定し、虚偽の説明をしたとして起訴された。この件については7月16日に大法院判決があった。有罪になれば京畿道知事を失職するだけでなく、大統領選へも出馬できなくなるところだった。市民の関心は高く、大法院判決はテレビで生中継されたが、12人の裁判官中7人が無罪と判断した。『リアルメーター』の7月第3週の調査で李洛淵議員との差を4.6ポイントに縮めたのは、無罪判決を受けて支持の勢いが強まったものとみられ、与党の大統領候補選びは李洛淵議員、李在明知事を軸に動く可能性が強くなった。
第3位に躍り出たのが尹錫悦検察総長だ。『韓国ギャラップ』の調査は、調査会社側がリストをつくってその中から選ぶのではなく、回答者が自分で名前を挙げる方式だが、前回は1%だった尹検察総長が7%に急上昇した。『リアルメーター』調査では14.3%という高い支持率を示した。
尹検察総長自身は政治への転身を表明していないが、文在寅政権の秋美愛(チュ・ミエ)法相と鋭く対立しており、支持する政治家がいない保守層が尹検察総長に期待を集めた形だ。
保守系の政治家は4月の総選挙の大敗北で、黄教安(ファン・ギョアン)前代表が政界から姿を消し、保守票を集める大物が不在の状態だ。
来年4月にソウル、釜山で市長選挙
文在寅大統領は支持率を下げても、与党は4月の総選挙で176議席を確保して圧勝し、国会では安定した勢力を確保した。
2022年3月の大統領選挙まで大きな選挙はないとみられたが、セクハラ問題で呉巨敦釜山市長が辞任し、朴元淳ソウル市長が自殺したことで、来年4月に韓国の首都ソウルと第2の都市釜山で市長選が行われることになった。
次期大統領選挙の約1年前で、まさに大統領選挙の前哨戦になる。しかも、ソウルも釜山も与党選出市長のセクハラ問題が絡んでの選挙で、与党は不利だ。与党はこのところ大きな選挙では連勝を続けているが、ここで両市長選挙を落とせば雰囲気は変わってくる。
朴元淳市長はフェミニストで、女性問題では最もアピールできるとみられていた人物だっただけに、与党は候補の選定に悩むだろう。与党内では、秋美愛法相など有力女性政治家が朴市長のセクハラ問題への言及を避けている。両市長選挙は進歩勢力にとっては頭の痛い関門となった。
しかし、一方の保守勢力にも有力な大統領候補がいない。あまりの人材難のために、政治家でもない尹錫悦検察総長が世論調査で3位に浮上するという現象が起きている状況だ。
朴元淳ソウル市長の死で浮かび上がるのは、進歩陣営と保守陣営による社会の分断であり、対立の激化だ。
朴元淳市長の自殺は、単に1人の政治家の死というだけでなく、韓国の進歩勢力に大きな葛藤を生み出すだろう。被害者中心主義を叫びながら被害者をつくっていたあり方が問われることになる。
文在寅政権の支持勢力は、保革を超えて様々な改革案を受け入れ、政治的な多元主義の中で社会統合を実現するという努力を怠り、保守との権力闘争を優先させることで改革を困難にし、合理的な保守との連携という社会統合を放棄している。政権と市民運動の関係も、良い意味での緊張関係がなくなり、市民運動が政権の補完勢力になりつつある。市民運動への優遇と支援で政権への支援を担保するというもたれ合いの構造をつくってしまった。進歩勢力の主流は、保守勢力との闘いだけを優先し、獲得した権力の維持に汲々として、自己改革、自己革新をしようという動きはまだ見えない。朴元淳市長のセクハラと死は、韓国社会の病理をさらに浮かび上がらせた。