朝日「軍艦島の徴用工」社説に疑義あり 女性センター長が質問状を出した根拠
元島民も抗議
朝日新聞は7月9日、「世界遺産対立 負の歴史見つめてこそ」との社説を掲載した。《世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」に関する展示をめぐり、日本と韓国の間で摩擦がおきている》問題を取り上げた。
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この社説に“事実誤認”の疑いが指摘されているのだが、その前に、なぜ日韓に《摩擦》が起きているのかをご説明しよう。
朝日新聞が6月16日に掲載した記事「『徴用工差別ない』証言展示 韓国は抗議 政府が施設公開開始」などから、ポイントを引用する。
【1】「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は2015年、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産リストに登録された。
【2】遺産は19世紀後半から20世紀の初頭にかけ、日本の重工業が発展した歴史を伝える。山口県や福岡県など8県に点在し、知名度が高いものに、静岡県の韮山反射炉や、長崎県の端島炭鉱=軍艦島、三菱長崎造船所、福岡県の三池炭鉱、八幡製鉄所などがある。
【3】世界遺産委員会では、長崎・端島炭鉱に動員された徴用工の説明をめぐって日韓両政府が対立、諮問機関のイコモス(国際記念物遺跡会議)が勧告で「歴史全体について理解できる説明戦略」を求めた。
【4】日本政府は「真摯に対応する」と約束し、「産業遺産情報センター」の設置準備を進めてきた。
【5】20年6月15日、産業遺産情報センターが東京都新宿区で開所。センターの中では端島炭鉱や長崎造船所、八幡製鉄所などの歴史を解説した。
社説の「公文書」と「判例」
【6】センターは、戦時中の端島において朝鮮半島出身者への差別は「聞いたことがない」とした、在日韓国人2世の元島民の証言も紹介。これに韓国は反発し、6月15日には同国外務省が冨田浩司駐韓大使を呼んで抗議した。
【7】加藤康子センター長は朝日新聞の取材に対し、「政治的な意図はない。約70人の元島民へのインタビューで、虐待があったという証言はなかった」と答えた。
こうした経緯を踏まえて、先にご紹介した朝日新聞の社説をご覧いただこう。冒頭は、こんな具合だ。
《国としての対外的な約束は誠実に守る。日本が求めてきた、この原則を自ら曲げるようでは信頼は築けまい》
朝日新聞は、センターがアーカイブした端島炭鉱=軍艦島の元島民による証言を《当時を知る人びとの証言が、貴重な価値をもつのは論をまたない》と評価しながらも、《個々の体験の証言を取り上げるだけでは歴史の全体像は把握できない》と指摘した。
自分で《貴重な証言》と言っておきながら、それだけでは《歴史の全体像は把握できない》というのだ。
社説では、元島民が行った証言の価値を否定するため、次のように指摘した。
《朝鮮半島出身者の労務動員に暴力を伴うケースがあったことや、過酷な労働を強いたことは当時の政府の公文書などで判明しており、日本の裁判でも被害事実は認められている》
三菱マテリアルは否定
ところが、この部分は、歴史的事実として確認されていないという。事実だとすれば、《歴史の全体像を把握》できないどころか、単に歴史の捏造だと言っていい。
産業遺産情報センターのセンター長を務める加藤康子氏が、朝日新聞の社説に対して疑問を指摘する。
「社説を見た元端島島民より、『えっ! 政府が端島への労務動員時の暴力や島での強制労働を認めた公式文書や裁判記録があるの?』とお問い合わせがありました。というのも、社説は戦時中朝鮮半島出身者への虐待がなかったという元島民の証言の信頼性を、根本から否定する文脈で書かれているからです。センター開設にあたり、私たちは夥しい量の一次史料に目を通してきました。しかし、朝鮮半島から端島への労務動員で、《暴力を伴うケース》や、端島での業務で《苛酷な労働を強いた》ことを報告する公文書も、国内裁判事例も、見たことがありませんでした。そこで7月9日付で朝日新聞の社説がこのように書いた根拠を示してもらうために、質問状を送ることにしました。《公文書》と《裁判》という記述の根拠について、ご教示を依頼するものです」
加藤センター長の指摘を続ける。
「元島民たちも弁護士を通して、当時、端島炭鉱の経営にあたっていた現在の三菱マテリアルに『端島炭鉱(軍艦島)等に関する事実確認の申入書』を7月10日付で送付しました。申入書で、『朝鮮半島出身者に対する暴力や虐待、差別的な扱い、苛酷な強制労働を強いたといった被害を訴える裁判の被告となったこと、被害が認定された裁判が存在する事実はありますか?』と調査を依頼したのです」(同・加藤センター長)
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