今季120試合でバースの.389を抜く“夢の4割打者”は誕生するか? 重要ポイントをズバリ解説

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 新型コロナウイルスの影響で開幕延期が余儀なくされていた2020年のプロ野球ペナントレースが6月19日にようやく開幕した。通常より約2カ月遅れ、球場には観客を入れず、6連戦が基本、オールスター戦や交流戦なしなどというきわめて変則の形ながらも待ちに待っていたファンにとっては嬉しい限りだろう。当初の予定より23試合少なくなり、120試合で行われることになった今シーズン、試合数の減少からある1つの記録達成を密かに期待しているファンも少なくないはずだ。それは「シーズン4割打者の誕生」である。

 MLBではこれまでに20人によって延べ28回記録された。しかし、そのほとんどが1800年代後半から1900年代初頭にかけて、いわば近代野球以前にタイ・カッブ(タイガース)、ジョージ・シスラー(ブラウンズ)、ロジャース・ホーンスビー(カージナルス)など、今ではその存在が伝説ともなっている名選手たちによって記録されているもので、最後の4割打者は1941年に.406をマークしたテッド・ウイリアムズ(レッドソックス)となる。ちなみにウイリアムズも三冠王を2回獲得し、通算の出塁率.482は今もなお歴代1位というMLB史上に残る名選手である。

 ウイリアムズを最後にMLBでも約80年間、誰1人として記録していないところをみても、もはやアンタッチャブルに近い記録といってもいいかもしれないシーズン打率4割だが、長い歴史を持つ日本球界でもこれまで達成者は1人として出ていない。まさしく前人未踏の領域だ。

 これまで幾多の選手が.360を超える高打率を挙げた中で、最も4割に近づいたのが現在でもシーズン最高打率となっている1986年のランディ・バース(阪神)の.389。それに次ぐのが2000年のイチロー(オリックス〉の.387でこちらは現在でもパ・リーグ記録となっている。

 86年のバースは開幕直後こそ不調だったが次第に調子を上げ、9月終了時点では.394をマーク。4割の可能性を残していたものの最終的には.383の当時のプロ野球記録を更新するにとどまった。今、この年のバースの成績を改めて振り返って検証してみると、7月8日に.407とシーズン最高のアベレージを記録したが、その直後に25打数無安打のスランプに陥って.376まで打率を落としてしまっている。これがなければもしかすると4割に手が届いていたかもしれない。そう考えると返す返すも残念だ。

 そうした中で、実は日本プロ野球史上初のシーズン4割の大記録を達成していた選手がいる。89年のウォーレン・クロマティ(巨人)だ。この年のクロマティは絶好調で開幕からヒットを量産して打率4割をキープ。それまでの記録である広瀬淑功(南海)の89試合を破る96試合目まで4割を維持したが、この時点ですでに当時のシーズン規定打席403打席を超えていたため、もしそのまま残り試合を欠場していたら夢の4割打者が誕生していたことになったのだ。

 しかし、クロマティは優勝争いをしていたチームの主力打者だった。当然欠場するというわけにはいかず最終的には大幅に打率を下げて、首位打者は獲得したものの.378で終わっている。では、試合数が減った今シーズン、はたして4割打者は生まれるのだろうか。
 
 結論からいえば、決して容易ではないが、少なくとも140試合以上を戦う例年よりは可能性はある。そして、そのためには当然いくつかの条件が必要になってくるが、中でも最も重要なのがいかに四死球や犠打を増やして打数を減らせるかということだ。

 ここで敢えて説明しておくと、今シーズンの規定打席は120試合×3.1で372打席。ここから四死球、犠打を引いた打数で安打数を割ったものが打率ということになる。だから、なるべく多く四死球や犠打を稼ぎ、打数を減らせるかがシーズン4割を達成する大きなポイントになるが、中でも四球の数が重要だ。

 昨年でいうと山田哲人(ヤクルト)、近藤健介(日本ハム)、鈴木誠也(広島)が100四死球をマークしている。ここから考えて120試合となると最多で80個前後は稼げるはずだ。これに死球や犠打を加えて仮に85個の四死球、犠打が得られるとすれば打数は287となり、4割に到達するために必要な安打数は115以上ということになってくる。数字的にみても、試合数が少なくなる分たしかに達成の可能性はアップしそうだ。

 しかも今シーズンは移動が少なく、クライマックスシリーズもないため(パ・リーグは上位2チームだけのシリーズはあるが)、昨シーズンよりも確実に消化試合が増えるというメリットもある。決していいことだとはいえないが、場合によっては打率をキープするために欠場することも考えられるだろう。

 7月13日現在、打率4割をキープしているのは堂林翔太(広島)。鈴木誠也や宮崎敏郎(DeNA)、岡本和真(巨人) が3割7分台でそれに続いている。さらに、他にも意外な選手が台頭してくるかもしれない。いずれにしてもファンにとっては目が離せないシーズンとなりそうだ。

清水一利(しみず・かずとし)
1955年生まれ。フリーライター。PR会社勤務を経て、編集プロダクションを主宰。著書に「『東北のハワイ』は、なぜV字回復したのか スパリゾートハワイアンズの奇跡」(集英社新書)「SOS!500人を救え!~3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月20日掲載

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