「香港を殺した」中国の人権弾圧と膨張主義 次なるターゲットは尖閣、沖縄
強制的な不妊手術も
「今回の香港に対する弾圧は、共産党政府に歯向かう者は絶対に許さず強圧的に抑え込むという点において、各自治区への弾圧と共通していると言えるでしょう」
こう解説するのは、中国事情に通暁した産経新聞台北支局長の矢板明夫氏だ。では実際、自治区ではどんな弾圧が行われてきたのか。
「まず中国共産党は、表向き各自治区に自治を認めるとしながらも、実質は共産党支配の体制を作っています。自治区支配は、同時に漢民族による少数民族支配でもあるわけですが、各自治区のトップには共産党から漢民族の人が送り込まれています。そして、その下の共産党委員会の構成人数も奇数に設定され、過半数を漢民族が押さえるシステムになっている。その結果、自治は一体どうなったのかと、少数民族が反発し、それを共産党側が弾圧して潰すということが繰り返されています」
例えば、新疆(しんきょう)ウイグル自治区には、
「『再教育キャンプ』という名の強制収容所が設置され、共産党に非協力的な人物や、信心深いイスラム教徒がそこに送り込まれる。収容された人は100万から200万人いるとされ、恭順の意を示さないと何年間も拘束された上で、リンチの果てに殺されることもあると言われています」(同)
中国の自治区弾圧に詳しい静岡大学の楊海英教授が後を受ける。
「米国の研究機関が先月、中国共産党がウイグル人の人口を減らすために女性に不妊手術を受けさせているという衝撃のレポートを発表しました。私もそれを読みましたが、新疆ウイグル自治区のいくつかの地域で出生率がほぼゼロのところがあり、明らかに人口動態が不自然。これは男性が強制収容所に入れられているか、あるいは女性が強制的に不妊手術を受けさせられているか、どちらかである可能性を示しています」
続いて、内モンゴル自治区で行われてきた圧政のポイントは、
「環境破壊です」
と、矢板氏が説明する。
「内モンゴルの人々はもとは遊牧民ですが、中国共産党は石炭などの鉱物を採掘するために、広大な草原を開発して荒れ地にし、遊牧という営みをできなくしてしまう。こうして彼らの伝統的な生活様式を奪うことで、漢民族への同化を押し進めているのです」
さらにチベット自治区に関しては、
「信心深いチベット仏教徒が、中国共産党に対する抗議の焼身自殺を行い、そのショッキングな映像が国際的な批難の的になっています。これには中国共産党も神経を尖らせていて、焼身自殺を図った人物の友人などを強引に逮捕し、焼身自殺をすると関係者に累が及ぶという恐怖を植え付け、精神的な弾圧を続けています」(同)
このように、
「中国共産党は各自治区でそれぞれ爆弾を抱えているものの、強力な力で抑え込んできました。その『成功体験』があるからこそ、今回、香港にも同じ手法をとっているのです」(楊教授)
決して自治は許さない。裏を返せば、「辺境」の地で譲ることは領土縮小に繋がるので断じて応じられないという、中国の飽くなき膨張主義を見て取ることができるわけだが、その背景を、
「まず習近平が、毛沢東の暴力的革命に強く影響を受けている点が挙げられるでしょう」
と、楊教授は読み解く。
「また、中国は阿片戦争以降の100年は欧米や日本に『奪われた時代』であり、今はそれを『奪い返す時代』だと考えている。つまり、奪えるものは全て奪っておけと考えているので、中国の膨張主義に終わりはないのです。攻勢を仕掛けて相手が諦めたら、また次のターゲットに狙いを定め……と、次から次に膨張を図る。南沙諸島、尖閣諸島、そしてその先には沖縄へと、中国は進出を狙ってくるでしょう」
実際、尖閣諸島を管轄する沖縄県石垣市の中山義隆市長は、
「私は中国に対して批判的な発言をしています。国安法は外国人にも適用されるそうですから、香港を訪れた際、下手をしたら私自身が拘束の対象となってしまうかもしれません」
とした上で、こんな「現場感覚」を吐露する。
「私も、中国が領土の拡大路線を図るなかで香港の次は台湾、そして尖閣諸島に対して一層の強硬路線をとってくるのではないかと見ています。中国は、国際社会の批判など関係なく力で押してくる。香港の件は、我々にとって全くもって他人事ではありません」
[2/3ページ]