加害者に甘すぎる「少年法」改正案 年齢引き下げナシに被害者遺族「落胆しました」

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“少年には未来がある”

 被害者遺族が挙(こぞ)って疑問を投げかける改正案。本丸の年齢引き下げはどこへ行ったのか。

「今回の案は、折衷案なんです」

 とは、前出の法務省関係者である。

「法制審でも反対意見が根強いのと同様、自公両党の間でも断絶は深い。自民党は公選法や民法に合わせ、引き下げが当然という意見が多いですが、公明党は少年の保護・更生を第一に、との立場から絶対反対。今回の案は、自民党が譲歩して、公明党がぎりぎり呑めるラインのものを出した、というわけです。『逆送』を拡大したものの、これまで通り、18、19歳の事件はまず家裁に送る。実名報道は解禁するが、『起訴後』や『重大犯罪のみ』との条件を付ける。これらは公明党のスタンスが反映されたもの。そもそもの出発点であった『引き下げ』も公明党が認めないのであえて触れないようにしたのです」

「厳罰化」の正体見たり。合意を優先する余り、その根本を歪めてしまった、というわけだ。

 そして、先に述べたように、法制審には、「少年」保護を第一とする、弁護士や裁判官OBが控えている。

 7月1日、その法制審の会合が開かれた。前出の武さんは委員として、澤田さんはオブザーバーとして参加したものの、

「反対派の人たちは相変わらず。年齢引き下げにはテコでも動かない、という感じでした」(武さん)

「“少年院での健全育成が重要”“未来がある”“可塑性がある”とばかり。そんなにも深く加害少年のことを考えていますが、当の少年たちがそれを真剣に受け止め、向き合うかどうかは疑問が残ります」(澤田さん)

 と言う。法務省から今回の与党案より更に妥協する案が出る可能性も大なのである。

「新しく成人となる18、19歳を社会の構成者としてしっかり位置付ける意味で、少年法においても年齢は一律にならすべきだと思っています」

 とは、少年事件を数多く取材してきた、ノンフィクションライターの藤井誠二氏。

「今回の『折衷案』では、重大犯罪以外や起訴されない場合は、これまで通り、『子ども扱い』となってしまう。そこに違和感を禁じえません。少年法の理念はそもそも被害者のことが範疇に入っていない。あまりに加害者の保護に傾いています」

 世界の潮流と逆行しても、日本の諸法令が変わっても、なぜか「犯罪少年」には優しい国、日本。それを改める格好の機会を逃せば、この不条理が解消されるまで、あと何人の命が失われるのだろうか。

 政府は秋に想定される臨時国会での法案提出を目指している。残された時間はもうわずか、だ。

週刊新潮 2020年7月16日号掲載

特集「『厳罰化』『実名報道解禁』は名ばかり! 被害者遺族の思いを踏みにじる『少年法改正』」より

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