加害者に甘すぎる「少年法」改正案 年齢引き下げナシに被害者遺族「落胆しました」
お茶を濁しただけ?
そんな折に、与党から出されたこの「厳罰化」案。動きの鈍い法務省の尻を政治が引っぱたいた。国民感情を重視した流れで、歓迎すべきことだろうが、
「正直、“お茶を濁しているだけ?”“それくらいで終わってしまうの?”というのが率直な感想です」
と言うのは、土師守さん。1997年、神戸市で14歳の「少年A」によって、次男・淳くんが殺害された。「あすの会」(解散)の副代表幹事を務め、犯罪被害者の権利と被害回復を求める活動を続けてきた。
「もちろん逆送の拡大や、実名報道の緩和自体は良いことだと思います。しかし、この案が出ているということは、年齢の引き下げそのものについては行わない可能性が高い。残念としか言いようがありません」
先に述べたように、今回の改正論議の原点は年齢の引き下げにある。しかし、この案ではそれが置き去りになり、従来の20歳未満という少年法の枠内に終始してしまっているのである。
「何事も権利と責任は表裏一体。選挙権を得て、民法でも成人と扱われるのは、責任のある行動を取れる、と認定されているから。それなのに、罪を犯した時だけ、少年です、というのは筋が通りません。この根本にメスを入れないのなら、改正は大きな意味を失うのではないでしょうか」(同)
公職選挙法の改正で、18歳以上は選挙権を得られる。また、民法の改正によって、理論上は、18歳で医師免許や公認会計士の資格が取得可能になる。更には、裁判員になる資格も得られる。他人の生命や財産を預かり、あるいは裁くことができる者が、罪を犯した時だけ特別扱い、という矛盾を説明できる者がどこにいるだろうか。
「私も今回の与党案を聞いて落胆しました」
とは、武るり子さん。1996年、長男を16歳の少年に殺(あや)められた。「少年犯罪被害当事者の会」を立ち上げ、代表を務めている。
「成人年齢が引き下げられるのだから、少年法の年齢もそれに合わせるのが当然。成人なのに罪を犯した時だけ少年であるとなれば、これを18、19歳はどのように受け止めるでしょうか。“まだ自分たちは少年扱いだ”と、誤ったメッセージを与えてしまうのではないでしょうか」
そして、今回の改正にも懸念を述べるのだ。
「逆送の拡大自体は結構ですが、それで終わるのであれば心配です。原則、家裁に送るという枠組みは維持されてしまう。成人と同じく、まずは検察に送るという対応にするべきだと思います」
折しもこの5月、裁判官OB177人が少年法の年齢引き下げに反対の署名を提出したばかり。
「ここからもわかるように、家裁の人々の思想や考えは、刑事処分より保護処分。逆送の拡大のみを行うのであれば、今と本質的には変わらなくなってしまうと思います。私の息子の事件の時は、法改正前で『原則』ではなかったものの、検察官送致も可能でした。しかし、家裁の判断で保護処分となり、少年院に送られてしまったのです。“少年事件は絶対に保護処分が良い”との考えが強かった」
歴史を振り返れば、大正時代に制定された少年法では「少年」の定義は18歳未満。が、戦後、GHQの影響下で20歳未満に引き上げられた。その後、アメリカでは少年犯罪の凶悪化を受け、大半の州で18歳未満に引き下げられたものの、日本だけが時計の針を止めたように、20歳未満を維持している。世界を見渡しても、刑事法制上、20歳未満を少年と定めている国は1割強しかないという。今回の議論はそれを改める良い機会だったのだが……。
「今回で年齢が下がらなければ、一体、いつ下げることができるのでしょうか」
と憤るのは、澤田美代子さん。2008年、次男が19歳の少年によって故意に車で撥ね飛ばされ、殺害された。「少年犯罪被害当事者の会」で活動を続けている。
「川崎の事件があり、公選法や民法の改正があり、その流れでこの論議が起きた。それでも18、19歳は守られるとは理解できません。私の息子の加害者は、法廷で“少年法があるから5年くらいで出てこられる”と言っていた。つまり、刑が軽く済むことをしっかり理解して罪を犯していたんです」
そして、実名報道の解禁についても述べるのだ。
「もちろん私の息子の事件でも名は出されませんでした。その意味で、今回の解禁案は当然と思いますが、『起訴後』とか『重大犯罪』で、との条件が抑止力になるかどうか。新成人に対し、大人の責任を植え付けるために、有効なメッセージとなることを望みます」
そもそも、18歳以上が「大人」ならば、条件を付けずに成年と同じにすればよい。その上でどう報じるかは、事件に鑑みて、個々のメディアが判断すべきことではないのだろうか。
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