「富士山」のマグマに異変が 専門家が警鐘「いつ噴火してもおかしくない」
不気味な兆候
地震によって、富士山はどんな影響を受け、それがなぜ大噴火に結びつくのか。
その仔細に触れる前に、まずは富士山が噴火するメカニズムを知る必要があると、鎌田氏が話を続ける。
「火山噴火は『発泡』と呼ばれる現象によって引き起こされます。地下のマグマには5%程度の水分が含まれていて、それが水蒸気へと変化する現象ですが、ひとたびこれが起きるとマグマの体積が膨張し始め、やがて噴火に至るのです」
ビール瓶に例えれば、揺らしたり、落下させるなどして衝撃を与えると、開栓時に一気に中味が噴き出すのと同じ理屈らしい。
「地震の揺れで火山のマグマだまりに刺激が加わると、発泡が促されることが分かっています。東日本大震災で富士山の発泡が促されたことは間違いありません。今はたまたま小康状態を保っているだけで、次に南海トラフを震源とする地震や、何らかの刺激がマグマだまりに加われば、噴火する可能性が高いのです」
鎌田氏は、3・11の4日後に、富士山直下が震源となったマグニチュード6強の地震も、無視できない要因だと指摘する。
「地震は、富士山の火口から20キロの深さにあるマグマだまりの少し上、14キロあたりにある岩石が割れたことによって生じました。いわばマグマだまりの天井にひびが入ったことで中の圧力が下がり、非常に不安定な状態なのです。ちなみに、マグマだまりにかかる圧力が緩んでも、発泡は促進されます。そのため、圧力が下がって発泡が続けば、マグマが火口まで上がって噴火に繋がるのです」
富士山のマグマは、沸々と火口から噴き出すタイミングを見計らい、スタンバイ状態にあるわけだが、不気味な兆候は他にもある。
東京大学名誉教授で、山梨県富士山科学研究所所長の藤井敏嗣氏が言う。
「富士山では、00年から01年にかけて、深部低周波地震が多く観測されました。人には体感できないほどの揺れですが、マグマや火山ガスに動きがあることを表すもので、噴火の前兆現象のひとつです。それまでひと月に10回程度だった揺れが、100回ほどに増加し、これが半年続いたことで、富士山はいつ噴火してもおかしくない、今も生きている火山だと分かったのです」
一般的に火山では、地下のマグマが火道を上昇するにつれ、「低周波地震」に始まって「有感地震」や「火山性微動」が起こる(掲載の図)。それらの「前兆現象」をいち早く観測できれば、マグマがどの位置まで上昇しているか分かり、噴火を事前に把握できる可能性が高まる。
しかしながら、再び長尾氏に尋ねると、
「マグマは一度でも上昇すれば、そこから下がることは基本的にありませんが、上昇のスピードは一定ではありません。例えば、火口から深さ20キロのところにあるマグマが、10キロまで上昇するのに10年かかったとしても、そこから噴火するまではたった数日しかかからないケースもあるのです」
そもそも、マグマの位置を知る上で欠かせない「前兆現象」が、富士山では把握しにくいそうだ。
「富士山は綺麗な円錐形をしていることからも分かるように、火道がすでに出来上がっている火山です。こういった火山の場合、噴火の前兆である山体膨張が顕著に起こらない可能性もあるのです」(同)
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