九州豪雨は72時間で最大862ミリ もし首都圏で降ったら「江東5区」はどうなるのか?

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首都圏で危ないのは江東5区

 今回のような線状降水帯による豪雨は、首都圏でも起こりうるという。

「気温の高い地域は海水温も高くなり、積乱雲が発生しやすくなるので雨が多くなります。気温の高い西日本に豪雨が多いのはこのためです。もっとも2015年には鬼怒川が氾濫した関東・東北豪雨があり、600ミリの降雨量を記録しています。温暖化の影響で、今後は東日本も豪雨が起こりますよ」(同)

 首都圏で、800ミリ(72時間)を超える大雨が降ったらどうなるのか。

 内閣府は2008年、「首都圏における大規模水害の被害想定結果の概要」を公表している。その中にある「荒川右岸低地氾濫の被害想定」を見ると、荒川流域の平均雨量が約550ミリ(72時間)に達した場合、北区志茂地先で荒川の堤防が決壊。浸水範囲は板橋区、北区、荒川区、台東区、墨田区に及び、その面積は約110キロ平米。浸水区域内の人口は約120万人、死者は約2000人、最大約86万の人が孤立すると想定している。

「荒川にはスーパー堤防があり、埼玉には首都圏外郭放水路もあります。九州とは違って治水整備されています。九州と同じような800ミリを超える豪雨が首都圏であった場合、今回と同じような被害を受けるかどうかはわかりません」

 とは、江東区の危機管理室の担当者。

「ただ、首都圏で豪雨が発生した場合、最も被害を受けるのは、満潮位以下のゼロメートル地帯が多い江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)です。そこで江東5区では、大規模水害による犠牲者ゼロの実現に向け、2016年に『江東5区広域避難推進協議会』を設置しました。18年には『江東5区大規模水害ハザードマップ』を発表しています」

 このハザードマップによると、荒川で72時間の総雨量が632ミリ、江戸川で491ミリに達すると、江東5区のほとんどが浸水するという。江東5区の人口は約260万人だが、床上浸水となる居住人口は250万人に達すると想定。さらに、浸水の高さは最大で約10メートルと、人吉市の4・3メートルの倍以上。堤防沿いの家屋は氾濫流によって倒壊、流出のおそれがあり、人が集まる駅や橋梁では、群衆雪崩や将棋倒しなどの大事故が発生する可能性もあるという。

「昨年10月の台風19号の時、浸水被害が心配されましたが、治水が整っていたので、江東5区は難を逃れました。ただ、江東5区だけでなく荒川や江戸川の上流、つまり埼玉で豪雨があれば、川が氾濫することも想定されます。線状降水帯は九州や東海だけとは限りませんから、最悪の事態を考えながら対策を講じるつもりです」(同)

 先の森田氏もこう言う。

「今回と同じような豪雨はここ10年で増えています。18年の西日本豪雨、17年の九州北部豪雨、15年の関東東北豪雨、12年の九州北部豪雨などで、これは温暖化の影響によるものです。海水温が1度上がると、大気中の水蒸気の量が平均して10%増えるのです。東京では10日間で1000ミリを超す豪雨はまだありませんが、今回のような豪雨がいつ来てもおかしくありません。首都圏では海抜ゼロメートルの低地帯が危ないでしょうね。自治体は洪水のハザードマップを作成していますから、是非、ご覧いただきたいと思います」

週刊新潮WEB取材班

2020年7月16日掲載

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