草創期の「ABEMA」はデタラメだった だから楽しかった

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蛭子能収さんとのプロ野球、エロス…

 もうひとつ困ったのが、プロ野球でした。ABEMAでは権利処理の問題で、当初プロ野球をはじめスポーツの映像がほとんど使えませんでした。しかし、「AbemaPrime」の放送時間だと、プロ野球開催期間はどうしても試合の途中経過や結果を番組で取り上げたくなります。さあ、映像が使えないのにどうしよう? と頭を悩ませていると、放送作家のたむらようこさんが「映像が使えないなら、絵に描いてみたらどうでしょう」という、一瞬理解に苦しむ…というか訳の分からない提案をしました。

 その当時は結構ヤケクソで、それもいいかもと思いました。で、その頃たまたま「何かニュース番組のお仕事がしたいと蛭子能収さんが言っている」というのをテレ朝の後輩から聞き、紹介してもらうことになりました。怒られるかな…と思いながら蛭子さんに、「生放送のスタジオにおいてテレビでプロ野球中継を見ながら、絵を描いて途中経過を報告してください」とお願いすると、二つ返事でオッケーしてくださいました。そこで、野球についてほとんど興味もなく知識もない蛭子さんが、何を描いたかよく分からない絵で野球の途中経過を説明するが、結局ほぼ何も分からない、という謎のプロ野球ニュースコーナーが誕生したのです。

 蛭子能収さんには、本当にいろいろとお世話になりました。番組宣伝の30秒動画にもご出演いただきました。テレビ朝日の本物のニューススタジオに、スーツを着て七三分けにした蛭子さんにキャスターの体で座ってもらい、そこに下読みをしてもらっていないニュース原稿を突然渡して、蛭子さんがつっかえつっかえ文句を言いながらニュースを読む、という動画も撮影させてもらいました。全然原稿が読めない蛭子さんがとても可笑しくて、そこそこ話題にもなりましたが、本当は読み仮名もふらず、改行もしていない「わざと読みにくくした原稿」だったことを告白して、蛭子さんの名誉を回復しておきたいと思います。

 その後も蛭子さんには、「蛭子能収の、蛭子能収による、蛭子能収のためのニュース」という、「蛭子さんが自分の興味のあるニュースを自分のためだけに取材する」シュールな番組を ABEMAでやらせてもらいました。「人はなぜ人を殺すのかが気になる」とおっしゃるので、5人殺害したヤクザのヒットマンとか、連合赤軍のリンチ事件で仲間を殺した人とかにインタビューしてもらい、なかなか不思議な番組になりました。

「蛭子能収がエロスに挑戦して、エロス能収に」という、それだけのダジャレためにSMの緊縛師の取材をしてもらい、嫌がる蛭子さんをスタッフが説得して緊縛で宙吊りになってもらったら、「意外に気持ちいい」と喜んでくれたこともありました。世界中のパリピが集まるイビサ島に蛭子さんに行ってもらい、「蛭子能収、イビサ能収になる」という番組企画書はさすがに上司に怒られて、通りませんでした。

 つい先日蛭子さんの病状が公開されました。実は私も、結構前から蛭子さんの病状がとても気になっていました。ぜひ、お体に気をつけられて、ご活躍を続けていただきたいと思っています。本当に良い人なので、僕は蛭子さんが大好きです。また、ぜひ元気な蛭子さんとお仕事をご一緒させてもらえたらいいなと心から思っています。

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