韓国、フェミニスト人権弁護士兼市長がセクハラ原因で自殺して…MeTooの実態は?

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検事長によるセクハラを検事が告発した結果…

 フェミニスト人権弁護士兼政治家として名声を轟かせていた朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が、元秘書からセクハラ容疑で告訴されてからわずか1日で遺体で発見され、警察当局は事件性がないと判断、自殺と思われる。もちろん市長に対する哀悼の声が起こっている一方、MeTooに絡んで批判の声も高まっている。実は朴市長、「セクハラは違法行為」という認識を韓国で初めて主張した弁護士として知られる人物であり、亡くなった原因がセクハラ問題だとするなら何とも皮肉としか言いようがない。

 朴市長は女性の人権を擁護する弁護士であり、現職の市長であった。2017年5月、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾によって誕生した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、朴市長だけでなく、安熙正(アン・ヒジョン)前忠清南道知事、呉巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長がセクハラ(MeToo)疑惑に巻き込まれるなど、大きな社会問題となっている。政界のみならず、法曹界、スポーツ、文化界に波紋が広がっているMeToo運動の実態と限界を追跡してみよう。

 朴市長は7月8日、セクハラ容疑でソウル市庁元秘書室職員Aさんから告訴された。Aさんは数年にわたり秘書として勤務していたが、身体接触に留まらず、市長からセクハラ行為を受けてきたと主張した。告訴翌日、市長の失踪のニュースがマスコミによって報道され、その後、山中にて遺体で発見された。市長の死亡により真相究明は難しくなったが、政界の一角では「告訴直後に死亡したことから、事実上容疑を一定程度認めたことになる」という分析も出されている。

 元秘書の弁護団は13日、記者会見を開き、性被害を訴えた。朴市長は下着姿の写真を彼女に送りつけたり、市長室のベッドルームに呼び出し、「抱きしめろ」と強要したこともあるという。元秘書は市役所に助けを求めたが無視され、セクハラは彼女の異動後も続いたと訴えている。

 映画などで何かと悪者に描かれがちな検察内でもMeTooは存在する。徐志賢(ソ・ジヒョン)検事は2018年1月、JTBCのインタビューで内部告発を行った。検察内部コミュニティに、「安兌根(アン・テグン)元法務部検察局長(検事長)が自身に対してセクハラを行ったこと」を書きこんだことで、人事上の不利益を被ったというものだ。安氏のセクハラ行為は下級審では認められたが、被害者の告訴期間が経過していたため処罰はされなかった。人事不利益を与えた要件(職権乱用管理行使妨害)裁判では、二審で懲役2年の刑を宣告した。しかしながら、大法院(最高裁判所に該当)では無罪の趣旨で差し戻された。

 それにもかかわらず、徐検事による暴露の反響は韓国社会においてムーブメントを起こしていった。文化芸術界を中心に隠れていたセクハラ被害者たちの声があちこちから上がり始めた。オンライン上では女性に対する性商品化に反発する意味から「脱コルセット運動」も共に展開。もっとも、このような MeToo運動の一角では、「美人局疑惑」や「女性嫌悪」といった反発現象も起こり、一方では暴露者の個人情報晒しや名誉棄損などの逆告訴が続き、被害者、加害者双方の訴訟合戦が相次いだ。

伊藤詩織さん、性暴力に声を上げた女性たちへの「2次加害憂慮」

 2018年12月、山口敬之元TBSワシントン支局長から受けた準強制性交を告発した伊藤詩織さんと徐検事の対談が実現した。取材した京郷新聞の報道によると、伊藤さんは「韓国の女性が徐検事の暴露から、自分たちの声を上げる文化が起こったことが印象だった」とし、「日本のメディアは性暴力について積極的に取り上げようとしていない」と話した。そして「殺害予告、および脅迫など、相当な2次加害に苦しめられたが、日本では2次加害が怖くて自身が受けた性暴力を言えないのが実情」と語った。

 徐検事は、「MeToo運動以降、男性は少しずつ気を付けるようになったと感じる」としながらも、「声を上げた女性に対する陰口が大きくなっているのが実情」と強調した。実際、朴市長に対する「MeToo疑惑」を提起した秘書Aさんもまた、オンライン上に実名、写真など個人情報が晒され、市長の支持者たちを中心に誹謗中傷の書き込みが乱舞している。

 朴市長は、当選する前は女性運動を積極的に支援する人権派弁護士として知られていた。市長は「セクハラは違法行為」という認識を韓国で初めて主張した弁護士であり、市長になってからも性平等委員会を設置するなど、女性親和政策をブランドに掲げてきた。それにもかかわらず、自らがセクハラ加害者と訴えられたのは何とも皮肉なことだ。

 MeToo運動が盛り上がりを見せると同時に、被害者・加害者を共に追い込む韓国社会の在り方に対し、朴市長の死が一石を投じたのは間違いないだろう。

週刊新潮WEB取材班

2020年7月15日掲載

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