歌舞伎町ホストクラブは店名非公表、鹿児島ショーパブは公表、コロナ感染でなぜ自治体の対応は違うのか
東京都は独自路線
公表の内容が大きく変わるのは、《感染者に接触した可能性のある者を把握できている場合》と《把握できていない場合》だ。
前者の場合であれば、病院だろうが有名企業だろうが、ホストクラブでもキャバクラでも名前は公表されない。感染を封じ込めているため、具体的な情報を出して注意喚起する必要がないという判断だ。
問題は後者の場合だ。厚労省はクラスター感染の定義を「5人以上」と定めている。例えば、事務所や店舗から10人の感染者が発生し、更に拡大が懸念される場合、自治体は名称の公表を検討しなければならない。
鹿児島県の「NEWおだまLee男爵」は、この代表例と言えるだろう。感染者は80人を超え、人気店のため県外からの来客も多い。依然として経路などが分かっていないこともあり、店名を公表したのだ。
公表に伴い、鹿児島市が判明していない来客に対し、検査を呼びかけた事実も報道されている。
読売新聞の西部版が7月3日に報じた「新型コロナ 県内の感染者21人に 8人は同一飲食店に勤務=鹿児島」からご覧いただこう。
《市は県を通じて厚生労働省クラスター対策班の派遣を要請した。また、6月13~29日にかけて同店を訪れた人に帰国者・接触者相談センターへの連絡を呼びかけている》
その結果は、朝日新聞が4日、鹿児島県版などに掲載した「県と鹿児島市、緊急対策会議 新型コロナ /鹿児島県」に紹介されている。
《市が最近の利用客らに相談するよう呼びかけた結果、2日だけで130件、3日も多くの連絡が寄せられているという》
クラスター感染でなくとも、公表を行ったのが大阪府だ。3月1日に朝日新聞が報じた「大阪、感染3人同じライブに 新型肺炎」からご紹介しよう。
《吉村知事は29日夕に開いた会見で、ライブハウスの名前を公表したことなどについて「15日のライブでコロナの感染が広がったとみるべきだ。密閉された空間で多くの人が身近にふれあう。さらに感染クラスターが広がらないように発表する」と説明》
記事の見出しにもある通り、この時点で感染者は3人。クラスターには該当しない。改めて大阪府がメールで行った回答を見てみよう。
《ライブハウスの時は、公表せずに、来場者に連絡をとることができない状況でしたので、より少ない人数でも、公表という判断になりました》
だが、店名公開を阻むハードルが存在するのは事実だ。愛知県の回答文書には《社会的影響等も考慮し、施設名の公表にあっては、原則、施設の了解が得られた場合としている》とも明記されている。
もしキャバクラやホストクラブで、5人以上のクラスター感染が発生したとする。来客者全てを把握していない場合、更なる感染拡大が懸念される。その場合、自治体は店名の公表を検討するはずだ。
しかし、職員が店の了解を求めても、拒否されたらどうするのか。北海道、神奈川、愛知の3道県で「ホストクラブやキャバクラの店名公開の必要が生じたが、拒否された」という実例は存在しない。その上で仮定の質問を行った。回答は以下の通りだ。
北海道《仮定の質問にはお答えできない》、神奈川県《公表を納得してもらえるよう、説明に全力を尽くす》、愛知県《仮定の質問にはお答えできない》。一方、大阪府の場合は店舗名の公表を拒まれたケースがあるという。
東京都は、独自色の強い方針を掲げているようだ。担当者は「会社名や店名の公表については、個人のプライバシーに十分配慮すると共に、その情報を公表した場合のリスクも併せて考える必要があります」と説明する。
「病院の名前を広報したのは、公共性の高い施設だからです。外来患者の方もいらっしゃいますし、入院患者のご家族もおられます。特に院内感染が発生したわけですから、病院名を広報することで、都民の皆さまに注意喚起をお願いしたわけです」
有名企業は自ら広報するケースも少なくないのは、先に見た通りだ。その上で東京都は、「感染の蔓延防止と個人のプライバシー保護などとのバランスを取りながら公表しております」と言う。
「特にホストクラブやキャバクラの場合、店名を公開すると、SNSなどで誹謗中傷が起こることが考えられます。『新宿エリアのホストクラブでクラスターが発生しました』という広報内容を伝えることによって、充分、都民の皆さまへの注意喚起につながると考えています」
歌舞伎町のホストクラブで、たとえ100人の感染者が出たとしても、店名は広報されないということになる。
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