「混んでます報道」やめませんか? 他人の炎上で稼ぐマスコミ(中川淳一郎)

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 県境をまたいでの移動が可能になった週末の6月20日、21日。全国各地で渋滞が発生し、行楽地は大混雑となりました。すると同時発生するのが「混んでます報道」なんですよ。

 富士山5合目に来た一家がTVの取材に応えたのですが、高齢の外国人女性も一緒でした。男性が「インドネシアから来た妻の母と桜の時期に出かけたかったのですが……」と苦笑いをしていました。

 察するに、義母が日本に足留めされ、ようやく親孝行ができた一家なのでしょう。「うわっ、オレ、全国に『気の弛んだ不届き者』扱いされちゃう! お義母さんに富士山を見せたかった、という必要至急の外出だとなんとか印象づけなきゃ」なんて思ったのか、その作り笑いには若干の罪悪感が滲み出ていました。

「野外イベントで遊ぶ若者」は、大勢が嬌声をあげながら踊りまくっている。レポーターは「マスクをしていない人もいますね」とやる。若者は「もう発散させたいっすよ!」みたいなことを言っています。彼らにはモザイクがかかり音声加工もされている。

 前者は「善良なる市民。でも、欲望を我慢しきれない人」で、後者は「ハメを外した非常識バカ」という構図で視聴者は受け取る。

 もうこの「混んでます報道」やめませんか? 遊びに行った人は罪悪感を覚えるし、遊びに行かなかった人は「こちとら我慢してるのに、この馬鹿どものせいでまた感染が拡大したらどうするんだ!」となり、誰も幸せにならないんですよ。

 楽しむために遊びに行くのに、登山なんか暑苦しいマスクをつけての苦行となります。

 メディアは散々「自粛警察」や「マスク警察」を取り上げて「やり過ぎだ!」と義憤を煽ったけど、「混んでます報道」だって「自粛警察」であり「マスク警察」だよ。それでいて取材側は“マイクを棒につけてソーシャル・ディスタンスを取っていますから”“レポーターもマスクつけていますから”と予防線を張る。

 自分たちは炎上しない準備をしたうえで、登場する人々を視聴者に叩かせる。結局コレって、スポーツ紙の電子版が作る「芸人の○○がツイッターで××と発言。それがネット上で賛否両論の大激論となっている」といった「炎上誘発コタツ記事」と同じ構図なんですよ。

 著名人のSNSやテレビ、ラジオでの発言は過激であれば大抵はネットニュースで取り上げられる。それを報じたメディアはアクセス数さえ稼げればよく、記事が人々の「けしからん!」の気持ちとともに拡散すればするほどお金になる。一方、取り上げられた著名人は自身のSNSに罵詈雑言が押し寄せてくるだけ。

 著名人本人は何の得もしないわけです。そんな理不尽な状況にある中、ロンブーの田村淳が、日刊スポーツがラジオのコメントを抜粋して記事化することについて「もう何を言っても無駄なんだとわかりました……」と絶縁宣言。ここには「もうオレのコメントを使って文脈から切り離したクソ記事つくるんじゃねぇ!」という怒りを感じます。もっと他のメディアにも言っちゃえ! 他人を炎上させて自らはノーダメージで稼ぐ連中は本当にゲスですね。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年7月9日号掲載

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