「愛の不時着」のようにはいかない南北関係(KAZUYA)

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 韓国人と北朝鮮人の禁断の愛を描く「愛の不時着」が話題ということで、この連載のネタにする前提で見ました。

 韓国ドラマをまともに全話見るのは初めてでしたが、ファンタジーとして見るなら、なかなか楽しめる作品だったと思います。ちょっと韓国ドラマをナメてました(ごめんなさい)。

 主人公は韓国の財閥令嬢で有能で美人なユン・セリ。無能な兄2人を差し置いて、財閥の後継者に指名されるも、パラグライダーが竜巻に巻き込まれ、北朝鮮側まで飛ばされてしまいます。車が宙を舞うレベルの竜巻ですから、生身の人間はただでは済まないと思いますが、そこはドラマなので無傷です。

 この時点で現実味がなさすぎてズッコケました。そこにやってきたのが北朝鮮兵士のリ・ジョンヒョクです。彼はハンサムかつ高身長で北の高官の息子だというおまけ付きです。こんな完璧兵士いないでしょう……。

 いや、こういうツッコミをしながら見ること自体野暮なのかもしれない。ピュアな心を取り戻して見ようと思っても、脇役の間抜けっぷりや、普通なら粛清されるであろう行為の連続など、ゆるすぎる北朝鮮側での生活の描写を見ると、やはりツッコミを入れてしまいます。僕の心が汚れているのか、作品がおかしいのか。

 韓国に帰りたい、けど失敗するというのを何度かやりつつ、いつの間にか惹かれ合う二人。こういうもどかしさが、韓国ドラマファンにはたまらないポイントなのだろうなと思います。

 韓国ドラマといえば女性ファンが多いでしょう。これは現実の自分を投影するというより、現実では考えられないような非日常のシチュエーションを妄想して、例えるならディズニーに出てくるようなプリンセスに自分を強引に重ね合わせる感覚でしょうか。

 ドラマのようにゆるい感じに、実際の南北関係が進んだら良いのですが、現実は厳しいです。

 韓国の文在寅大統領は、散々北朝鮮寄りの姿勢を示していたのに、北は開城にある南北共同連絡事務所を爆破してしまいました。韓国側から北朝鮮へ飛ばされたビラにご立腹の金正恩委員長の妹、金与正氏が主導したという話です。

 健康不安説も根強い金正恩委員長の後継者との見方もある与正氏です。強硬な姿勢を見せることで、国内には頼れるリーダー候補としてアピールし、海外にはある程度の実行力があり、何をしでかすかわからないと警戒感を抱かせるためにやったのではないかとも考えられます。

「愛の不時着」はドラマですし、恋に落ちる二人が一定の地位にあったことが良い方向に作用しました。しかし現実はそう簡単にいきません。

 北朝鮮というのは今も昔も情報が限定的すぎるために不気味です。金王朝体制を変革しなければ、南北両国は当然として周辺国にも安定はもたらされませんし、南北間の関係も限定的なものになるでしょう。しかし金王朝打倒を志向すると反発して何をやるかわからず、手が出せません。着地点が全く見えない南北関係のドラマは、完結しないままシーズンを重ねていきそうです。

KAZUYA
1988年生まれ、北海道出身。2012年、YouTubeで「KAZUYA Channel」を開設し、政治や安全保障に関する話題をほぼ毎日投稿。チャンネル登録者72万人、総視聴数は1億4千万回を超える。近著に『日本人が知っておくべき「日本国憲法」の話』(KKベストセラーズ)

2020年7月9日号掲載

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