“新会議に山中教授”への懸念 コロナ対策の政治利用が加速も
政治利用されかねない
重い公的役割を背負った専門家会議が、厳しい論評の対象になるのは当然だろう。それにしても、彼らへの慰労や謝意がまるで聞かれないのは奇妙だが、今後はどうなるのか。廃止される専門家会議は、法的根拠があいまいだったが、新たな分科会は特措法にもとづく有識者会議の下部組織と位置づけられ、地方自治体の首長や危機対応の専門家なども加わるという。
法的根拠が不明瞭だと問題が生じるようで、専門家有志の会の一員、早稲田大学の田中幹人准教授(科学技術社会論)が説明する。
「責任の所在があいまいになるのに加え、メンバーが受ける嫌がらせの問題があります。たとえばおよそ専門家会議の助言と関係ないことについて、訴訟をちらつかせ、理屈の通じない脅迫をしてくる人もいます。こうしたときに法的根拠が明確でないと、守ってもらえない、提訴されても専門家が自分で訴訟対応するしかなく労力を割かれる、などのリスクがあります」
だが、日本医科大学特任教授の北村義浩医師は、懸念してこう語る。
「公衆衛生の専門家は、ロックダウンを主張し、経済の専門家は、コロナ弱者の老人を隔離し、若者は経済を回すんだ、と訴えるなど、メンバーの間でも意見が分かれるはず。意見が一致するわけがないので、分科会が“前のめり”で会見するようなことは99・9%起きないでしょうけど」
加えて、政府は二つの有識者会議も設置した。AIを使って飛沫経路をシミュレーションし、感染防止策を検討するもの。それから、AIを使ってこれまでの感染症対策の効果を検証するものだ。現在、異論が噴出しているのは、国民に人気の高いiPS細胞の山中伸弥教授(57)が構成員に選ばれた後者に対して、北村医師が言う。
「メンバー4人のうち、黒川清政策研究大学院大学名誉教授は、東日本大震災のとき東電福島原発事故調査委員会の委員長を務めましたが、腎臓病の専門家。京大の山中教授もそうですが、感染症の専門家でも、リスク管理の専門家でもない。彼らの検証結果を受け入れなければならないとしたら、不安です」
内田さんも訴える。
「山中教授はご自身で“感染症の素人ですが”とおっしゃっていますが、一般の人から見るとノーベル賞を受賞した科学者。一般の人にとっては専門家らしく見え、実際には感染症対策の専門家ではない人がメンバーに据えられ、新型コロナ対策が政治利用されかねない状況です」
政権に都合のいい意見を言わせるということか。山中教授に対する、さる感染症専門医の話を紹介する。
「山中先生は自身がマラソンをするので、ランナーにマスク着用を呼びかけていますが、初夏のランニングでマスクをせず感染したりさせたりするリスクと、マスクをして体調を崩すリスクを比較したら、後者のほうが圧倒的に危険です」
有識者会議で、そういう見識にもとづく提案が行われたらどうなってしまうことか。専門家会議が前のめりすぎたとしても、こうしたポピュリズムと一線を画していただけ、価値があったとは言えまいか。
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