シンガポール「リー首相」が総選挙中に兄弟ゲンカ 弟が野党入党、兄の独裁を大批判
きっかけは実家問題
兄弟の確執が表面化したのは、2015年の父の死後から2年が経った2017年6月のこと。クアンユー元首相が家族とともに暮らした家、つまり彼らの実家を巡る問題がきっかけだった。
日本人観光客にも人気の繁華街「オーチャード」のオクスリー通り38番にあるこの家は、5つのベッドルームを備えた英国コロニアルスタイルのバンガローで、時価総額20億円ともいわれた。
父クアンユー氏の死後、家は、次男のシェンヤン氏、そして妹のウェイリン氏の共同保有とされた。生前、父クアンユー氏は自宅の取り壊しを希望しており、次男と妹はこれに同意していた。ところが長男のリー首相はこれに従わず。“建国の父が暮らした家を維持することで、亡き父の威光をバッグに政治的求心力を維持しようとしている”として、シェンヤン氏は妹と共に「国家権力を乱用し、信用しない」とFacebookに兄を責める声明を発表したのだ。
これに対し、リー首相は反論の声明を発表したが、今度はシェンヤン氏は妹ともに、リー首相夫人、つまり“義理の姉”の批判も展開。政府系ファンド「テマセク」の最高経営責任者でもある首相夫人が、その立場を利用し政財界に「強い影響力」を振るっていると指摘したのだ。曰く“リー・クアンユー氏の名声を利用し息子の政界進出を図り、将来の首相にする意図がある”。
実家の処理問題をきっかけに、一族の後継者問題も露呈した形だ。だが、シェンヤン氏らの“暴露”によって、実家を保存するため、閣僚をメンバーにする検討委員会が国会内に立ち上げられていたことも判明。リー首相は国会で答弁する必要に迫られた。
結局、家は「保存する」ことが決定され、現在は妹のウェイリン氏が居住する。彼女の死去後は、時の政権が管理することになっている。
その一方、シェンヤン氏もトラブルを抱える身だ。今年2月、シェンヤン氏の妻で弁護士のリー・スウェットファーン氏に、懲戒特別法廷から有罪判決が下された。容疑は、リー・クアンユー氏の遺書作成に関与した不適切行為だった。最終判決で有罪が確定すれば、弁護士資格が剥奪される可能性もある。前出の関係者は「現在、夫人はシンガポールを離れ、友人らのいる東京に住んでいるようだ」と明かす。
さらに、父と共に野党支援を表明し、寄付金を提供したシェンヤン氏の長男、シェングウ氏も、過去にFacebookで行ったシンガポール政府批判が国家冒涜にあたるとして、訴追されている。同氏は裁判の不当性を懸念し、留学中だった米ハーバード大にとどまり、現在、助教授として米国に“逃亡中”の身である。シンガポールに帰国すれば、逮捕される見通しだ。
本人は否定しつつも、シェンヤン氏による兄への“反逆”の背景にあるのは、こうした出来事に端を発する兄との確執だと思われる。
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