米中全面対決で朝鮮半島は「コップの中の嵐」に転落 日本の立場は
中国からいじめられたら助ける
――韓国は中国包囲網に加わるのでしょうか。
鈴置:そこです。中国は6月30日、「香港国家安全維持法」を公布。米中は全面的な対決に入りました。双方とも、容易なことでは引き下がれません。
当面の焦点は経済的な中国包囲網、EPN(Economic Prosperity Network=経済繁栄網)です。米国は韓国に参加を呼びかけていますが、韓国政府は「詳しい説明を受けていない」などと逃げ回っていいます。
そんな時、東亜日報に面白い記事が登場しました。「米高官、『中国の報復の時には韓国のために何でもする準備ができている』」(6月15日、日本語版)です。
米高官とはEPNを担当するクラック(Keith Krach)国務次官です。6月11日にインドやブラジルなど5カ国の報道機関と電話で会見、EPNや中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)に対する制裁に参加するよう求めました。韓国からは東亜日報だけが選ばれました。クラック次官の発言を記事から拾います。
・(韓国が、中国の報復措置を受ける場合)米国は韓国を助けるために何でもする準備ができている。
・全世界が中国の脅威と報復に対抗するために立ち上がらなければならない。
・中国と米国のうち一方を選択しろということではない。選択は誰にでも開かれているが、結局どちらを信頼するかの問題。
サムスンはTSMCに続くか
――「米中の二者択一ではない」と言いながら……。
鈴置:「結局は、どちらを信頼するかだ」と選択を迫ったのです。逃げ回る韓国政府に対し、東亜日報を使って警告を発したわけです。 会見で、クラック次官はサムスン電子にも言及しました。以下です。
・韓国は世界の経済的、技術的パワーハウスであり、米国だけでなく全世界的に大きな貿易パートナー。
・(サムスン電子に対しては)世界3大5G企業の一つであり、最も発達した半導体生産企業。
米政府は中国が5Gで通信の覇権を握るのを防ぐため、華為との商取引を規制しています。クラック次官がわざわざサムスン電子に言及したのは、華為に対しシステム半導体を供給しないよう要求するためと思われます。
5Gに使う高性能のシステム半導体を生産できるのは台湾のTSMC(台湾積体電路製造)とサムスン電子くらい。米政府はTSMCが華為に供給するのには歯止めをかけた模様で、残るサムスン電子の動向に注目が集まっています。
トランプ大統領が突然、文在寅大統領にG7に招待したのも韓国懐柔の一環と思います。詳しくはデイリー新潮の「文在寅の懲りぬ『米中二股外交』 先進国になった!と国民をおだてつつ…」をご覧ください。
韓国は中立を守れ
一方、中国も韓国への圧力を強めています。6月16日に朝鮮日報などが開いたウェブ・シンポジウムに参加した、北京大学・国際関係学院教授で全国人民政治協商会議の賈慶林・常務委員長は以下のように語りました。
朝鮮日報の「中国は『中立守れ』…米国は『中国の報復時には助ける』」(6月17日、韓国語版)から発言を抜き出します。
・中国は米国の封鎖措置に抵抗するだけだ。中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)など様々の国際機関を創設し、各国との協力を進めている。このため、米国のEPNが成功する可能性は薄い。
・韓国が自国の利益のために正しい決定を下すと中国は期待する。韓国の最大の戦略は中・米の間で中立を守ることである。
・韓国が米国の中国封鎖に参加してはならない、というのが中国の立場である。中国の核心利益を損なってはならない。
なかなかドスが効いています。「もし韓国がEPNや、華為いじめに加われば、いじめまくるぞ」と言っているわけですから。
でも、中国の言う「中立」を守れば、米国からは中国側に走った、と見なされてしまうでしょう。韓国は板挟みです。
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