TBS「私の家政夫ナギサさん」、多部未華子は“不器用な仕事人間”をどう演じるか

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 多部未華子(31)が主演するTBSの連続ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(火曜日午後10時)が7月7日にスタートする。昨秋、写真家の熊田貴樹氏と入籍した多部にとって、結婚後の初主演ドラマ。多部の魅力である愛くるしさや透明感は既婚者になっても変わらない?!

 多部未華子は10代のころから演技力を高く評価されてきた。聖女役から妖女役まで何でもござれ。これまでに読売演劇大賞優秀女優賞や日本映画批評家大賞主演女優賞など数々の栄誉に輝いた。

 とはいえ、一番のハマリ役はなんと言っても真っ直ぐな女性だろう。本人も仕事をしながら東京女子大を6年かけて卒業した努力家で、2002年の子役でのデビュー以来、スキャンダルとは一切無縁。そんな実像が重なり合う役柄が抜群に似合う。

 大当たりした「これは経費で落ちません!」(NHK、2019年)での熱血経理部員・森若沙名子役も真っ直ぐだった。今回の「私の家政夫ナギサさん」で演じる28歳の独身OL・相原メイも仕事一途である。

 ただし、森若とメイのキャラクターはもちろん異なる。森若は仕事も家事も完璧にこなした。片やメイは仕事こそ誰よりも出来るものの、家事は大の苦手。恋や婚活のほうもさっぱり。不器用らしく、仕事だけの人なのである。

 このドラマは多部の結婚後の初主演作。女優によっては結婚によって人気がガクンと落ちてしまうが、多部はそれを免れた。フェミニンを売り物にせず、私生活を切り売りするようなこともしてこなかったせいでもあるだろう。

 株式会社CMサイトによるネット調査「美人すぎる30代女優人気ランキング<2020年最新版>」(有効回答者数1万3573人/調査日5月26日)で、多部は7位にランクイン。独身の菜々緒(31)の18位、木村文乃(32)の8位を上まわった。ちなみに1位は綾瀬はるか(35)。2位は新垣結衣(32)、3位は深田恭子(37)だった。

 多部は出演CMも評判が高い。CM総合研究所の調べによると、2000年5月度のCM好感度調査で、多部とあいみょん(25)が出演中の「キリンビール/淡麗グリーンラベル」はアルコール部門でトップだった。

 今回のドラマの主題歌もあいみょんによる「裸の心」である。もちろん新曲なのに、昭和期に学生街のスナックで聴いたような錯覚を起こさせる。味わい深い楽曲である。

 ドラマの話に戻りたい。家事も恋もお粗末なメイを見かねた妹の唯(趣里、29)が、スーパー家政夫・鴫野ナギサ(大森南朋、48)をメイのところに送り込む。仕事で疲れて帰宅するメイをサポートする家政夫がいたら、恋をする余裕も生まれると考えたのだ。

 ところがメイは強く反発。知らないオヤジがいきなり現れ、自分の下着まで洗うと言い始めたら、確かに嫌だろう。

 とはいえ、家政夫代金は唯が前払い済み。キャンセルしても払戻金はない。メイは渋々、ナギサを受け入れる。こうして年の差男女の奇妙な生活が始まった。

 ナギサは50歳。家事代行サービス業者に所属する家政夫で、家事全般の技量がピカイチであることから、指名率はナンバーワンだ。依頼者の生活をサポートする家政夫という仕事に誇りを持っている。

 一方、メイの仕事はMR。製薬会社の医薬情報担当者である。入社3年目から、ずっと営業成績トップを維持していたというから、凄腕である。ところが、ライバル会社に自分とは違った手法を使うMR・田所優太(瀬戸康史、32)が現れ、営業先の信頼を獲得してゆく。仕事人間のメイは動揺する。

 原作は四ツ原フリコさん作の女性向け同名漫画で、電子書籍で配信中。人気作となったため、後から紙での書籍も発売された。さらに小説版も出た。読んでみると、なるほど面白い。

 人間を知り尽くしているかのようなナギサの言葉は魅力的だし、純で真っ直ぐな性格のメイにも好感が湧く。

 なぜ、メイが過度なまでに仕事に傾倒するようになったかというと、背景には母・美登里(ドラマでは草刈民代、55)の存在があった。美登里は大学を出て社会でバリバリ働きたかったが、時代がそれを許さず、賢母となることを余儀なくされてしまった。それが悔しかったため、娘のメイには仕事と家事の両立を求めたのだ。母親の期待や思いを背負わされたのである。

 ドラマの設定としては新しい。親が息子に仕事面などで過度な期待をするというパターンは過去に掃いて捨てるほどあったが、娘の場合はあまりなかった。実際にはそんな境遇にある女性が大勢いるだろうから、こんなドラマがあったほうがいい。

 メイは本当のところ、「お母さん」になりたかったのだ。それが幼いころの夢だった。だが、今の時代にそれを実現させるのは簡単ではないだろう。男女雇用機会均等法が施行された1986年ごろから徐々に難しくなっている。

 性別による就職機会の差別はあってはならないものの、相当数の女性が就職せずに結婚した昭和期と違い、働かずに結婚するのは難しい。だが、親の願いや世間体というものが壁になっている。男性だって働きたくないと思っている人はいるに違いない。そんな人たちは生きにくさを感じているのではないか。

 一方のナギサはというと、やはり幼いころはお母さんになることを夢見ていた。こちらも息苦しさを感じただろう。家事全般を完璧にこなせるようになったのはこの願望が影響しているようだ。

 いつの時代も正しい生き方などないのに、世間を支配する空気というものが男性にも女性にも「あるべき人生」を求めがちだ。実は誰にとっても生きにくいのかもしれない。ハートフルコメディという触れ込みだが、深みのあるドラマになる気がする。

 多部はこのドラマについて、こう語っている。

「明るいテイストの中にもほっこりしたり、じーんとしたりと、心がほかほかするドラマになるといいなと思っています」(番組ホームページより)

 最後に多部の演技で見どころはどこかというと、まずは目にほかならない。一番のチャームポイントであり、目千両の人と言ってもいい。目だけで大抵の感情を表せてしまう。

 特に見る側を引き付けるのが、相手を睨む時の目。三白眼気味になるのに愛らしい。歌舞伎で睨みを売り物にする俳優は何人もいるが、睨みが売り物になっている女優は多部くらいだろう。

 多部の演技のうまさをこのドラマであらためて確かめるのも一興であるはず。その演技力については理論派の俳優・奥田瑛二(70)が2012年、舞台「サロメ」で共演した際に、「彼女は天才。頭の良さ、体の切れ、感性が凄い」と絶賛している。

「本当か?」と疑う向きはご自分の目で確かめることをお薦めしたい。

 ちなみに大森南朋も日本アカデミー賞優秀主演男優賞などを獲っている演技巧者。多部にとって相手に不足はないだろう。

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月7日掲載

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