外資による土地買収で国土が「不明化」する――平野秀樹(姫路大学特任教授)【佐藤優の頂上対決】
外国資本による土地買収は、わかっているだけでも、東京・山手線内部の面積に匹敵する。実態はその10倍以上と見られ、さらに同規模の土地が、外資のソーラー発電事業地なのだという。中には転売を繰り返し、所有者不明となって徴税不能の場所もある。この状態をいつまで放置しておくのか。
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佐藤 平野さんは、産経新聞の宮本雅史さんと一緒に本を書かれていますね。宮本さんは「フジサンケイ ビジネスアイ」(当時)で、私の連載の担当でした。
平野 『領土消失』ですね。彼は非常にエネルギッシュな人でしょう。
佐藤 韓国資本による対馬の要衝地の買収が明るみに出た時は、ほんとうに怒っていましたね。
平野 対馬の土地買収は、宮本さんが問題提起したことで、大きな話題になりました。
佐藤 宮本さんは新聞記者として、平野さんは農林水産省の技官、なかでも林野庁でお仕事をされてきた立場から、外国人の土地所有問題を追いかけてこられました。さらにそこから進んで、日本の制度の不備とグローバル化によって、土地だけではなくさまざまな分野でその実態が把握できなくなっている、つまりは「不明化」している、というのは、非常に興味深いご指摘でした。
平野 まず土地の問題からお話しすると、今年の2月に北海道の倶知安(くっちゃん)町の国有地2万718平方メートルが、北海道財務局による一般競争入札で、香港資本に落札されました。落札価格は約4億5千万円です。民間の山林売買から始まって、国有地までもが中国資本に売られていくというのは、行きつくところまできた、という感じですね。
佐藤 一般競争入札ですから、そこに国籍の規制はないんですね。
平野 ありません。SF作家の故・小松左京氏に「日本売ります」という短編があります。小松氏の作品では、人類のほとんどがウイルスで死滅する『復活の日』にいま再びスポットが当たっていますが、「日本売ります」も、その先見性が表れている作品です。テーマが国土買収そのものだからです。日本を買うのは外国資本ではなく、遠い星からやってきた異星人ですが、都心の目立たぬ場所に事務所を開き、無数の他人名義で土地を購入して、民有林から公有地の順番で買い占めていくんです。
佐藤 まさにいまの日本を彷彿させる話ですね。
平野 私は13年間、この問題に警鐘を鳴らしてきましたが、いまや国有地が直接、外国に買われる時代になったわけですから、かなり空しい気持ちになりますね。
佐藤 この問題が明らかになったのは、いつからなのですか。
平野 2008年です。儲からない山を買う動きがある、と地方から情報が入るようになったのです。調べてみると、中国人の団体が北から南まで日本列島をキャラバンして、山を買う動きを見せていました。2008年は中国で北京オリンピックが開かれた年です。一方、日本ではこの年から継続的に毎年、人口が減っていきます。つまり中国が表舞台に出たのと、日本が過疎化に向かう年が一緒で、ここから始まったのは、非常に象徴的なことだと思います。
佐藤 少し調べてみたのですが、そもそも山林の不動産売買は、それ自体が非常に不透明ですよね。
平野 はい、そうです。
佐藤 普通の不動産屋に出ている物件は非常に限られていて、一方、山林専門の不動産屋は、沖縄の軍用地を扱っているようなところにも似た怪しい雰囲気がある。
平野 山林は農地と違ってまったく売買規制がありません。昔からアンダーグラウンドで商いがなされていて、登記をせずに相場の半値で仕入れ、相場の2倍で売り飛ばしたりするブローカーが普通でした。
佐藤 「山師」という言葉もあるくらいですからね。
平野 現代では、企業が買って登記はしますが、一筋縄ではいかない。ダミー会社を噛ませたりすることが多々あります。
佐藤 会社といっても代表取締役だけ日本人をおいてボードに外国人を入れることもできるし、全員が日本人であったとしても、お金を出した外国人が背後で操るということも十分可能ですからね。
平野 脱税と言いますか、節税方法として、個人名義では買わず香港などのペーパーカンパニーに買わせて、転売を繰り返していく。その際、法人名はそのままにして日本の登記簿は変えません。そうすれば登録免許税も不動産取得税も払わずにすむし、場合によっては所有者不明で固定資産税も取られずにすみます。
佐藤 外国まで徴税に行くのは、コストパフォーマンスからして難しいでしょう。
平野 ええ。それに税法上も、国税マンや徴税吏員が持つ「質問検査権」は、日本国内でしか有効ではないんです。外国の銀行も、日本国内にある支店なら協力するでしょうが、例えば香港の香港上海銀行が日本の税務当局に協力するというのは考えにくい。現に協力していませんし、そうした節税術を指南しているのは、外国の銀行のOBあたりなんですね。
佐藤 そういう人たちの背後には暴力装置がついている可能性があります。国家公務員でも地方公務員でも、徴税に無限責任を負っているわけではありませんから、職務遂行か命か、となったら、当然、命を選びますよ。
平野 ええ。その結果、日本の不動産は「不明化」する一方、保有税のかからない「国際金融商品」になってしまっているのです。
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