トランプに大恥をかかせたK-POPファンの正体 ファンコミュニティ内の人種間対立も
アイドルのイメージ向上を兼ねて社会貢献
6月3日前後にはまたTwitterで、“#WhiteLivesMatter”“#BlueLivesMatter”など白人至上主義者が用いるハッシュタグに、“fancam”を添えて大量に投稿。ハッシュタグをクリックしても表示されるのはK- POPアイドルなど無関係な動画ばかりとなり、白人至上主義のメッセージはその圧倒的な数にかき消された。
翌4日には、K- POPの男性グループ “BTS(防弾少年団)” の公式TwitterアカウントがBLMへの賛同を表明。BTSはさらに6日、BLMの関連団体に100万ドル(約1.1億円)を寄付したことを明らかにした。これを受けてBTSのファンもTwitterで寄付を呼びかけ合い、翌日にはもう100万ドル近くを集めている。
もっともK- POPファンが社会運動に加わるのは、これが初めてではない。K- POPアイドルの多くは韓国国内の価値観も反映し、品行方正な若者の手本としてよくチャリティに参加している。そしてK- POPファンもさまざまなチャリティを通じて、応援するアイドルのイメージ向上に努めてきた。例えばBTSのファンクラブARMYは有志のグループを通じて、植樹活動や国際的な医療支援など幅広い社会貢献を行っている。BLM支持者との共闘も、こうしたファン活動の一環と捉えれば理解しやすいのかも知れない。
ファンコミュニティ内の人種間対立
反黒人差別運動を通じて、自分たちもイメージを向上させたK- POPファン。だが彼ら自身のコミュニティも、人種間の対立と無縁ではないと報じられている。
90年代の音楽シーンを母体とするK- POPのサウンドは、当時世界的に市民権を得たヒップホップを始めとする黒人音楽の影響を土台とする。BTSがBLMを支持するのも、この黒人音楽とのつながりが背景にあることを指摘されている。
だが一方で黒人音楽からの流用を指摘する黒人のK- POPファンは、コミュニティ内で非黒人のファンから攻撃され、除け者にされるという。MITテクノロジーレビューは、黒人ライターの次のような趣旨のコメントを紹介した。「自分も含めた黒人ファンが嫌がらせに直面しているのに、白人ファンが反差別活動で賞賛されるのを見ると、自分たちが利用されて捨てられたように感じる」。
フロイド氏暴行死事件の3日前にあたる5月22日には、BTSのファンコミュニティで黒人と非黒人の亀裂が広がった。メンバーのSUGAがこの日公開した新曲に、918人の信者が犠牲になった事件で知られる米カルト教団 “人民寺院” の教祖の肉声がサンプリングされていたからだ。犠牲者の大半が黒人だったことから多くの黒人ファンが音源の使用を問題視すると、非黒人ファンの攻撃に晒された。
SUGAと所属事務所は同月31日に謝罪を表明して曲を再リリースしたが、これも新たな亀裂を生む原因となっている。米メディアTeen VogueはBLMの拡大を経た6月3日付の記事で、「この騒動は昨今の暴力がもたらす黒人の精神的苦痛への思いやりの欠如を表している」と伝えた。
K- POPファンはリベラル層を救えるか
トランプ氏の集会ボイコットも、手法自体は新しいわけではない。“#Resistance”(レジスタンス)のハッシュタグでトランプ氏に対抗していたTwitterの集団は、昨年の集会でも同じことを試みている。ただし結果は成功につながらなかったという。
K- POPファンがそんなリベラル層の期待に添うのかどうか、まだ未知数のようだ。前述のニューヨークタイムズに登場した少女は、「私たちはトランプを追い出したいのであって、バイデンが好きなわけじゃない」とも語っている。
いっぽうで多くのK- POPアイドルは、金大中~盧武鉉と1998年から10年続いた左派政権時代に学齢期を過ごした世代だ。世界の右傾化が指摘されるなかでも、“反権威主義的”な左派が支持を集める現代韓国のムードが、アイドルを通じて海外ファンにフィードバックされている可能性もある。
政治という新しい分野で脚光を浴びたK- POPファンが、今後どのようにその影響力を振るうのか。しばらく目が離せない状況が続きそうだ。
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