トランプに大恥をかかせたK-POPファンの正体 ファンコミュニティ内の人種間対立も
現れなかった“100万人”のトランプ支持者
「約100万人もの人々が、オクラホマ州タルサの集会のチケットをリクエストしている!」
今年6月15日(現地時間・以下同)にこんなツイートをしたのは、米トランプ大統領。3カ月ぶりとなる同月20日の大規模な選挙集会を前に、空前の動員予測を大喜びで勝ち誇ったわけだ。トランプ陣営の大統領選・選対本部長ブラッド・パースケール氏もその半日ほど前、「土曜日はすごいことになる!」と興奮気味にツイートしていた。
ところが当日、1万9200人収容の会場に集まったのはわずか6200人。会場の外に4万人分の別ステージまで用意して待っていたトランプ陣営は、場外イベントの中止を余儀なくされた。閑散とした会場内の写真が世界中に配信され、トランプ氏が大いに面目をつぶされたのは周知の通りだ。
K- POPファンの台頭を歓迎するリベラル層
集会の翌日、この珍事を引き起こしたのは動画共有アプリ“TikTok”のユーザ、そしてとその呼びかけに応じたK- POPファンたちだと報じられた。主に10代とされる彼らがトランプ氏に赤っ恥をかかせようと、オンラインでチケットを大量にカラ予約したというのだ。
パースケール氏は同日、参加者数が予想を遥かに下回ったのは「新型コロナウイルスや反黒人差別デモの脅威を煽る“フェイクニュース”のせいだ」とメディアに矛先を向けた。だがそんな主張をよそに、メディアやSNSでは“トランプにひと泡吹かせた”K- POPファンがにわかに脚光を浴びている。
海外のK- POPファンはそれ以前から、今回の反黒人差別運動=BLM: Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)に同調し、オンラインで警察や白人至上主義者の鼻を明かしてきた。ただし米リベラル層がK- POPファンを有能で新しい援軍として歓迎する一方で、その期待に疑問符をつける現地報道も複数ある。またK- POPファン自体もコミュニティ内で黒人と非黒人の対立を抱えるなど、実態は複雑な様相をはらんでいるようだ。
“トランプが嫌う全ての人々が私たちに含まれている”
このニュースに登場するK- POPファンとは、そもそも何者なのか。ニューヨークタイムズやWIREDなどによれば、トランプ氏の集会ボイコットに参加したファンの大半はアメリカ人だという。いっぽうでMITテクノロジーレビューによると、K- POPファンは10代の白人が中心ともいわれてきたが、実際は年齢も人種も多岐にわたるそうだ。一部ないし多くが、10代でもないらしい。ただし性別は、女性が多くを占めるとされている。
K- POPが産業として確立されたのは、韓国の音楽市場で10代が新たな消費者として台頭した90年代後半。00年代後半には欧米にもファンコミュニティが登場していたが、特に大きく海外ファンを増やしたのは2012年に世界的ヒットとなった “江南スタイル” がきっかけだ。
アメリカでは当初、アジア系住民がK- POPのファン層をなしていた。次に広まったのは、非白人の若者だ。彼らはアメリカで主流の文化に疎外感を感じ、非西洋のポップカルチャーを求めていた。そうした層が韓国映画「パラサイト」のアカデミー賞受賞に不快感を示すトランプ氏と相入れないのは、自然な流れだ。またニューヨークタイムズはLGBTやマイノリティ層がファンコミュニティには相当数含まれるとし、「トランプが嫌う全ての人々が私たちに含まれている」というファンの10代少女の声を紹介した。
ダラス警察のアプリをダウンさせた “アイドル動画”
K- POPファンは、ネット環境のなかで育った“デジタルネイティブ世代”が中心だ。彼らはSNSや動画・音楽配信サービスで、応援するアイドルの人気を押し上げるためにITスキルを駆使してきた。そして今年5月下旬からは、そのテクニックがBLM支持者との共闘に用いられている。
ジョージ・フロイド氏の死亡事件が起きたのが、5月25日。するとまず28日からK- POPの女性グループ“Blackpink”のファンが、TwitterでBLMへの賛同を表すハッシュタグ“#BlackLivesMatter”の大量投稿を始めた。ハッシュタグとは、大勢が同じ話題を共有するために投稿されるリンクつきのキーワードだ。勢いが上位のハッシュタグは“トレンド入り”し、より多くの注目を集められる。
31日にはテキサス州のダラス警察が、専用のスマートフォンアプリを通じてデモ参加者の違法な行動を動画で通報するよう呼びかけた。するとK- POPファンはデモ参加者を警察から守るため、“fancam”と呼ばれるアイドルの短い動画を大量に送信。このスパム攻撃で、ダラス警察のアプリは使用不能に陥る事態となった。
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