地震予知を可能にする「電離層前兆予測」とは 大地震なら1日前に? 京大研究
緊急事態宣言発令中だった5月上旬、関東地方では1週間に3度も緊急地震速報が出された。
「『大地震の前兆かもしれない』と不安になった方も多いでしょう」
日本地震予知学会会長で東海大学教授の長尾年恭氏はそう話す。
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「実際に検証すると、極端に地震の数が増えたわけではありませんが、『最近地震が多い』という印象を持つことは重要だと思います。というのも、過去、大地震の前には比較的大きい地震が何度も起こるという傾向が確認されています。大地震の前には地下の弱い所からひずみに耐えきれなくなり、地震が多発するのです」
目下、発生が懸念されている巨大地震の一つが南海トラフ大地震である。これが実際に起こると、被害は地震や津波によるものだけに留まらない可能性があるという。連動して富士山が噴火するかもしれないのだ。
「過去、南海地方に巨大地震が起こった後、ほぼ2年以内に富士山が噴火しています。1707年の宝永の噴火でいえば、大地震の49日後に噴火が起こっています」(同)
コロナ禍の中、南海トラフ大地震が起こり、富士山まで……。国家存亡の秋(とき)を迎えるのは間違いないが、地震を事前に予測できれば話は違ってくる。ただし、
「『最近地震が多い』という感覚があっても、すぐに大地震が起こるということでは決してありません。あくまで大地震が起こった後に検証し、発生からさかのぼって10年くらいの間に比較的大きな地震が多発していたことが分かる、という程度です」(同)
1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災は共に事前に予知できなかった。それ故、地震予知は不可能と考えている方が多いかもしれないが、京都大学大学院情報学研究科の梅野健教授はこう断言するのだ。
「我々の研究はすでに実用可能に近い段階にきています。現在までの研究成果だけでも、マグニチュード(M) 6以上の地震は、1日もしくは数時間前に予測することができます」
梅野教授の研究成果を指標の一つとして用いた地震予測システム「S-CAST」はすでに会員への情報告知サービスを始めている。その「実績」については後で触れるとして、まずは予測の方法を梅野教授に解説してもらおう。
カギを握るのは「電離層」。地上から約80キロ~千キロのところにある大気上層のことで、いわゆる宇宙は電離層の外にあり、電離層の下にはオゾン層がある。
「電離層の変化と大地震の関連について研究し始めたのは、東日本大震災がきっかけ。震災が起こる前の電離層のデータを分析すると、地震発生の約1時間前に電子数が異常に増加していることが分かったのです」
と、梅野教授は語る。
「震災前のこうした変化は、八ヶ岳南麓天文台長でアマチュア天文家の串田嘉男さんも観測しています。彼は、本来聞こえるはずのない地域で仙台のFM放送の電波を受信したと発表しました。AM放送より高周波で、限られた地域でしか聞くことのできないFM放送が震災前に離れた場所で聞こえたということは、仙台上空付近の電離層に変化があった可能性を示唆しています」
電離層は電波を反射する性質を持っており、
「テレビやラジオなど電波を用いた通信は電離層のこの性質を利用しています。震災前に離れた場所で仙台のFM放送が聞こえたのは、仙台上空と八ヶ岳を結ぶ中間点の電離層の電子数が増加していたため、FMの電波がより遠くまで届いたのではないか、と考えられるのです」(同)
ではなぜ地震発生前に上空の電離層が変化するのか。
「電離層の電子数はフレア(太陽表面での爆発)などの太陽の変化に大きな影響を受けるという特徴がありますが、同様に地球のエネルギーの変化にも影響を受けることが分かっています」
と、梅野教授。
「大地震とは、簡単に言うと、プレートがずれる動きによって岩盤に蓄積されたひずみを解放するために、岩盤が破壊される動きによって起こります。ひずみが蓄積される間、つまり地震発生前にもその地震エネルギーは少しずつ解放されます。それは、熱エネルギーや電気エネルギーに変換されて解放されますが、その際、電磁波が発生する。上空の電離層は、その電磁波の影響を受けて電子数に変化が起こると推測されているのです」
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