「喫煙者はコロナに感染しやすい」のウソ 志村けんさんの死でも話題に
「劣等」と「優等」
今回、ことさらタバコが目の敵にされた背景には、不幸にも新型肺炎で亡くなった志村けん氏の影響が大きかったと言えよう。
国民的スターの命を奪った憎き新型コロナウイルス。この理不尽な事態、そして未知の恐怖を受け入れることができずに「悪者探し」が始まった。そして、志村氏はヘビースモーカーだった……。
〈格好の「敵」が見つかった!〉
〈やはりタバコが諸悪の根源なのだ!!〉
しかし、志村氏は4年ほど前から禁煙していて、一方、亡くなる直前まで酒席を好んだ。肝疾患はコロナの重症化リスクのひとつとされる。だが、志村氏の死を受けて、お酒が悪なのだ、禁酒を始めようという動きにはならない。
あるいは、糖尿病などの基礎疾患も重症化リスクのひとつと言われる。しかし、コロナに感染して死なないようにコーラを飲むのはやめようという話にもならない。やはり、タバコだけがスケープゴートにされているのだ。前出の加藤氏は、
「コロナ感染者を減らすために禁煙推進が叫ばれているのではなく、タバコを撲滅するためにコロナと喫煙の関連性が無理やり強調されている印象を受けます」
と、現下の状況を憂える。
また、精神科医の片田珠美氏は「タバコ諸悪の根源説」にこう警鐘を鳴らす。
「志村さんは亡くなる直前に、胃のポリープ手術を受けていたと報じられています。こうしたリスクファクターも感染や重症化に影響を与えたはずですが、非喫煙者にとっては『喫煙していたから亡くなった』と考えるほうが分かりやすく、安心できる。こういった『分かりやすさ』は人々を視野狭窄に陥らせ、他のリスクを見えなくしてしまう恐れがあるので非常に危険だと思います」
そして、さらなる危険性を指摘するのだった。なお彼女は非喫煙者である。
「コロナ禍における喫煙者バッシングは、自粛下でも営業を続けた店に貼り紙をしたりする『自粛警察』や、夜の街で働く人々への差別的な意識と同じ匂いを感じます。それは自分より『劣等』だと感じた人を差別し、排除する意識です」
米国の謂(いわ)れなき黒人差別は対岸の火事ではない。
「健康意識が高まるところまで高まった昨今の日本では、喫煙者は健康意識が低く、『劣等』であるというイメージが形成されている面があります。非喫煙者は、自分たちは『優等』であり、健康という錦の御旗を振りかざすことで罪悪感なく喫煙者を叩き、快感を得られる。しかし歴史を振り返れば、そうした考えはナチス的な優生思想につながる恐れがあります」(同)
たかがタバコ、されどタバコ。喫煙者の次には新たな「劣等人種」探しが始まり……。
コロナも怖いが、人の心はもっと怖い。
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