鬼姫「金与正」の知られざる過去 成績は兄・正恩より優秀、覚醒剤中毒説も

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成績は兄より優秀

 毎日新聞論説委員の澤田克己氏が振り返る。

「08年8月に金正日が脳梗塞で倒れ、翌年1月には韓国の聯合ニュースが“金正恩が後継”と報じた当時、私はスイスのジュネーブ支局にいて、留学中の兄妹が通っていた小学校の独語講師を取材していました」

 その学校は、スイスの首都ベルンにある公立小学校で、北朝鮮大使館から4キロほど離れていたという。

「学籍記録を見ると、与正氏は96年4月23日、8歳の時に北朝鮮大使館員の娘チョンスンと偽名を使い、編入していました」(同)

 最終的に00年末頃まで滞在したと澤田氏が続ける。

「学校への送迎は複数の女性が交代で担当し、ちょっとでもお腹をこわしたらすぐに病院へ連れて行くような過保護の状態。小学校の講師は、“北朝鮮では餓死者が出るというニュースを聞いていたので、そんな国から来た子がぽっちゃりしていたのを不思議に思いました”と話していましたね。確かに、その当時の写真を見ると頬がぷくっとしていて少し太めに見えました」

 成績は兄より優秀で、英語や独語に仏語、日本語も堪能で、ダンスのレッスンも受けていた。

 帰国後の07年、北朝鮮の最高学府である金日成総合大学に入学。物理学を専攻するが、その頃に彼女の身に“異変”が起きた。

 さる在韓ジャーナリストが明かすには、

「祖父や父に似て肥満体型だった与正氏は、急激にやせ細った。水泳部に属していたので体を絞ったと言う人もいますが、韓国の情報機関では、クスリの中毒者だろう……なんて疑惑が絶えず囁かれていました」

 ここで言うクスリとは覚醒剤のこと。かの国では覚醒剤は「オルム(氷)」と呼ばれ、人民の間で乱用する者が後を絶たない。ゆえに、北でも所持や使用は非合法で処罰の対象だ。

「与正氏は骨結核という持病を抱えていると言われています。症状としては身体がだるくなり活動意欲も失われる。それを改善するためクスリに頼ってしまったのかもしれません。18年の平昌五輪では、彼女はソウルのグランド・ウォーカーヒルホテルに宿泊しましたが、韓国の国情院は部屋の残置物から、覚醒剤を使用した痕跡を掴んだとの話もあります」(同)

 今なお薬物中毒に陥っているとすれば、突如として罵詈雑言で韓国を挑発する豹変ぶりも理解できよう。

 その一方、与正氏を“鬼姫”に駆り立てるほど北の内情は緊迫の度合いを増している。背景には、健康不安説が燻る兄の長き不在が関係しているという。

 コリア国際研究所所長の朴斗鎮氏が解説する。

「金日成の生誕を祝う4月15日の太陽節に、正恩氏は欠席しました。その直前まで政治局会議を主宰し、最高人民会議への出席予定も報じられていたので、重病説から死亡説まで飛び交いましたが、5月2日に地方の肥料工場の視察が報じられ、ひとまず生存は確認されました」

 健在をアピールしたかったのか。北朝鮮の国営メディアは動画付きでその様子を紹介したが、正恩氏は満面の笑みを浮かべる一方で肉声は流されず、歩く時に足を引きずる姿も見せたことから、何らかの疾患を抱えているのではとの健康不安説が再燃してしまった。

 朴氏はこうも指摘する。

「正恩氏の手首には、黒い傷跡のようなものが残っていました。心臓のカテーテル手術のために、管を入れた痕跡ではないかという説もありますが、心臓病は再発するたびに重症化しやすい。彼は5月に2回、6月は1回しかその動静が伝えられておらず、兄の健康不安が顕在化する中で妹の台頭が始まったわけです」

 与正氏の肩書は、朝鮮労働党中央委員会組織指導部第1副部長で、実質的に正恩氏に次ぐ、ナンバー2の地位に就いたとされている。

 朝鮮半島問題を取材するジャーナリストの石高健次氏によれば、

「昨年は正恩氏や与正氏の叔父で、駐チェコ大使だった金平一(キムピョンイル)氏が31年ぶりに本国に呼び戻された。今年1月末には、長らく動静が不明だった正日氏の実妹・金敬姫(キムギョンヒ)氏が姿を現した。現在は妹・与正氏を前面に出している。『白頭山の血脈』が相次いで表に出てきたのです。正恩氏からすれば、もし自分の身に何かあれば、側近は一丸となって金一族を支えるのだ。そういう無言のメッセージのようにも見えます」

 白頭山は抗日パルチザンだった金日成が山籠もりをして戦い、息子の正日が生まれたとされる聖地。ゆえに、金ファミリーは「白頭山の血脈」を重視するのだ。

 改めて朴氏に聞くと、

「今の北朝鮮はトリプルパンチを喰らってすっかりグロッキーになっています。最高指導者の健康不安に加え、大統領選を控える米国は経済制裁の解除に応じる見込みはない。そこに新型コロナウイルスの蔓延が重なりました。北朝鮮は1月30日に中国との国境を完全封鎖しましたが、これは経済制裁下で唯一の頼みの綱であった中国との貿易を断ち切ることを意味します。朝鮮労働党幹部でありながら脱北した黄長ヨプ(ファンジャンヨプ)氏は、“中国との貿易を6カ月遮断したら金体制は崩壊する”と言っていましたが、中朝国境が封鎖されて、まもなく半年が経とうとしているのです」

 キナ臭い半島情勢。日本も“対岸の火事”でないだけに注視しておくべきだろう。

週刊新潮 2020年7月2日号掲載

特集「北朝鮮暴発で日本に火の粉」より

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