佐野史郎がコロナ禍に没頭した神話の世界 「神話や歴史はまさに幻想怪奇文学」

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『神話と天皇』大山誠一 

 外出自粛でまとまった時間のできた機会に改めてと、ポーやラヴクラフトなど好きな探偵小説、幻想文学に浸っておりました。かつては知る人ぞ知るという存在の幻想怪奇作家、ラヴクラフトが生み出した「クトゥルー神話」も、近年はゲームやアニメ、ライトノベルなどで若い世代にも知られるようになり嬉しい限り。

 神話は歴史上の事実をフィクションとして再構築し、時に真実を語り、時に史実を隠蔽するために利用されることもあるといいます。

 ならば、この国の歴史や如何に? 財務省の公文書改竄問題もまだ記憶に新しいところ。歴史の改竄にも注意しなければ。たとえ時の権力の都合の良いように書き換えられ後世に伝わろうとも、隠蔽しようとした企みは、いつかは暴かれ、白日の下に晒されましょう。

 まさに探偵小説!

 探偵小説や幻想文学と政治の問題を同じ俎上で語るのはいかがかとお叱りを受けそうでもありますが、この国の歴史を遡れば神話に辿り着くのですから、お許しを! 神話といえば、現存する日本最古の書物『古事記』(岩波文庫ほか)。日本の歴史を辿る、まごうことなき幻想怪奇文学の古典!?

 神々を祖とする天皇家の物語がこの国の歴史を導いてきたことは、改めて言うまでもありません。近現代に限っても、幕末、蛤御門の変を経て、返す刀で佐幕派を追いやり王政復古を成し、戊辰戦争で勝利を収め明治新政府の樹立に貢献した長州閥。令和の現在に至るまで脈々とその力を保ち続けていますが、原動力となったのは朝廷の存在でした。

 その祖先は天照大神。アマテラス、スサノヲの姉弟の物語は、出雲の地出身の私には幼い頃から馴染み深いものです。天上を追いやられたスサノヲの子孫とされるオオクニヌシは、アマテラスより遣わされたタケミカヅチに国譲りを強要され、息子のタケミナカタが勝負に負けたため国を明け渡しますが、代わりに出雲大社を建立させます。

 一方、伊勢神宮は、高千穂峰に降臨したニニギが、祖母のアマテラスから授かった宝鏡を内宮に祀ったともいいますが、もともとは土着神の住まう地。出雲も伊勢も西暦700年前後に建立されたという説もあるようなので、それまでの土着神がどうなったのかが気になるところです。

 歴史は繰り返す。幕末から維新にかけ蝦夷地でアイヌ民族が追われたようなことが、古の時代にも同様にあったのでしょうか。そんなことを思いながら、大山誠一『神話と天皇』(平凡社)を再読。

 いまや「大化の改新」という言葉は教科書での扱いが変わり、その端緒が中臣鎌足と中大兄皇子による、権力簒奪のための血なまぐさい暗殺劇として認識されるようになってきたようです。

「やっぱりカギは乙巳の変。藤原不比等か~悪いやっちゃな~、疫病も流行るはずだ~」などと、ポーの短編「赤死病の仮面」(『ポオ小説全集3』創元推理文庫)と重ねます。

 歴史を繙く書物には怪しげなものもありますが、これはオススメ! 都合の悪い事実を隠蔽し、正史として後年に残そうとする企みは、政治や統治と不即不離の関係にあるようですが、企みの字面を離れて幻想怪奇の世界に身を置けば、土着神の声も聞こえてきそうです。

俳優 佐野史郎

週刊新潮 2020年6月25日号掲載

特集「コロナ時代に心の糧 巣ごもり『本の虫』を救った名著をひもとく」より

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