朝鮮半島は「2017年」に戻った 米朝の駆け引きの行きつく先は「米韓同盟消滅」

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米国の足かせを外そう

――バラマキ、つまり北朝鮮にカネを渡すなんてことを米国が認めるのでしょうか?

鈴置:その可能性は極めて低い。先にカネを渡したら、北は食い逃げして非核化などしないからです。トランプ(Donald Trump)米大統領は自ら誇る「取引の達人」ではなくなってしまいます。

――では、韓国は対北援助をあきらめる……。

鈴置:丁世鉉氏ら親北左派は米国と敵対してもカネを渡すつもりでしょう。先ほどの記事によれば、以下のようにも語っていす。

・外交部が2019年11月に深くも考えず(米国側の提案を)受け入れた韓米ワーキンググループが、南北米の二人三脚に縛り付け、南側が北側に歩み寄るのを防ぐ足かせになっている。

 米韓ワーキンググループは、文在寅政権が野放図に対北援助に動くのを阻止する装置です。韓国が北朝鮮にカネやモノを送る際には、この組織の――事実上は米国からの許可が要るのです。

 丁世鉉氏は「米国は無視しよう」とは言っていない。しかし、米韓ワーキンググループを南北関係改善の「足かせ」と表現したうえ、軍事的な緊張の元凶と示唆しています。反米世論を盛り上げ、米国の制止を振り切って対北経済協力に踏み切る作戦でしょう。

米韓同盟破壊が真の目的

――そうすると、北朝鮮の本当の狙いは……。

鈴置:援助を得るだけではなく、それを通じて米韓関係を破壊することにあると思われます。米国もこれを一番心配しています。

 ブルックス前・在韓米軍司令官は先に引いたCSISのセミナーで、爆破など一連の挑発に関し「北朝鮮の動機はワシントンとソウルを離間させることにある」と言い切っています。

 ナッパー(Marc Knapper)米国務副次官補も6月23日、アジア・ソサエティのオンラインセミナーで「北朝鮮の核・ミサイル問題の解決に注力している。そのためにも韓国と手を取って動かねばならない」と語りました。

 開始16分18秒後からです。韓国との足並みの乱れを予想するからこそ、「手を取って」と米韓協調を強調したのでしょう。

 B52の日本海演習は北朝鮮だけではなく、韓国に対する警告でもあったと思います。この演習は韓国の基地を使わなくとも、グアムと日本の基地を活用すれば北朝鮮の空爆など簡単にできることを如実に示しました。「韓国が腰砕けになろうと、米軍は非核化を譲らない」との強力なメッセージなのです。

まずは「駐留なき安保」から

――米国に不信感を募らせるとしても、同盟破棄に賛成する韓国人がどれほどいるのでしょうか。

鈴置:確かに、普通の韓国人は米韓同盟の破棄には容易には踏み切れない。そこで左派政権は、初めは在韓米軍の削減や撤収に留めるというトリックを使うと思います。

 同盟は維持するわけですから「いざ」の時は米軍が助けに来てくれるように見えます。でも、米韓同盟には自動介入条項がない。在韓米軍という人質がいるからこそ有事の際、米国は韓国に兵を送るのです。

 この「駐留なき安保」までこぎつければ、北朝鮮は韓国を侵略する必要はなくなります。「侵略するぞ」と脅すだけで、韓国はカネもモノも送って来るでしょう。

 在韓米軍が存在する今だって「北にカネをばらまけばいい」との声があがるのですから。そんな韓国を見た米国はますます愛想を尽かす。「駐留なき安保」は次第に同盟を蝕んでいくのです。

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