「岡田准一」がコロナ禍に読んだ本とは? 宮本武蔵の兵法書から学んだ「俳優の道」
『五輪書』宮本武蔵 佐藤正英 校注・訳
主演を務めた映画「燃えよ剣」の公開が延期になるなど、僕にとってもコロナ禍による影響は決して小さなものではありません。ただ、デビューから25年にして初めてまとまった自分の時間を得られました。戸惑いもありましたが、いまはこの時間を有意義に過ごそうと努めています。
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俳優と歌手という職業柄、毎日のトレーニングは欠かせません。同様に先人たちが遺した古今東西の物語を“浴びる”読書は、表現者としての立ち位置を確立する上で大切なものです。
いま目を通している書籍に、『ビジュアルマップ大図鑑 世界史』(東京書籍)という大型本があります。カラーやモノクロ写真のほか、図表がふんだんに使われており、人類の誕生から現代に至るまでの歴史が分かり易く解説されています。
例えば、14世紀にヨーロッパを中心に蔓延したペストは急速に広まり、当時の世界の総人口のうち、約3分の1に相当する1億5千万もの人々を死に至らしめたとあります。歴史的な大厄災ですが、この折に死の恐怖にかられた人々の間に広まった神秘主義が、後にかの地で花開くルネサンスにつながったとも言われています。
今回のパンデミックの後、人類にはどんな変革が訪れるのか。あるいは、人間はどのような価値観や意識を持つことになるのか。そうした来るべき新たな社会のあり様や、そこで自分が果たすべき役割や責任に思いを致す時、過去の事象に関する経緯や背景について知ることは、思索の血肉を得る行為にほかならないと実感しています。
僕は今年で不惑を迎えますが、若い頃から“自分は決して天才ではない”という自覚を持ってきました。その事実に気付いた10代のある時、“剣の道を究めた人物が遺した言葉には学ぶべきものがあるに違いない――”と、導かれるように手にしたのが宮本武蔵の『五輪書(ごりんのしょ)』(ちくま学芸文庫ほか)でした。
剣豪として名高い武蔵は生涯で六十余度にわたる真剣勝負を戦い抜き、一度も敗れることなく「二天一流」という独自の兵法を開眼するに至りました。
その奥義書とも言うべき『五輪書』は、地(ち)、水(すい)、火(くわ)、風(ふう)、空(くう)という5巻で構成されており、教えは多岐にわたります。兵法の基本や一対一の実戦における太刀の使い方などを指南する水の巻では、〈千日の稽古を鍛(たん)とし、万日の稽古を錬(れん)とす〉と、日々の努力や研鑽の大切さを説きます。同時に、二天一流と他流派との違いを詳らかにする風の巻で〈太刀は、いよ/\速く斬ること悪(わろ)し〉と、「ただ刀を速く振ることが強さではない」と喝破しています。
生涯を剣に捧げて“天下無双”と尊崇された武蔵は不世出の武芸者であり、かつ極限まで勝利を追求した戦術家でもあったのです。
僕はいま、俳優の道を究める旅の途中にあります。
これからの人生において、いかに自分を高みに導いていくのか、理想の生き様を全うするために必要なものとは何か――。そんなことを考える時、武蔵が到達したひとつの真理は、僕に大いなる示唆を与えてくれるのです。