金与正と共に二人三脚、正恩の実兄でクラプトン好き「金正哲」が超重要ポストへ
北朝鮮が避けたかったこととは?
元駐英北朝鮮大使館の公使で、2016年に亡命し、韓国の未来統合党の議員でもある太永浩(テ・ヨンホ)氏は、30歳の金正哲と数日間寝食を共にした経験を持つ。
彼はとにかく金正哲に何度も驚いたと言う。太永浩議員の著書『3階書記室のパスワード』に、その時のエピソードが記されている。2015年8月13日、金正恩書記室から駐英北朝鮮大使館に特別な指示が急に入った。
《数日後、ロンドンでエリック・クラプトンのコンサートが開催されるが、その公演のチケットを必ず手に入れ、そのチケットを受け取りに行く人に対し、“最大のおもてなしをするように”》
コンサートチケットはプレミアム価格ですぐに購入された。そして、北朝鮮からやってきてチケットを受け取ったのが、他ならぬ金正哲だった。
金正哲のギター演奏の腕前に舌を巻き、ショッピングで高価なビンテージ・ギターを購入する際、自身の財布から現金で支払う彼の財力にも驚いたと言う。
一方、日本人シェフの藤本健二氏は、金正哲はいわゆる「オタク」的気質が強いとしている。つまり「熱狂的マニアの側面を持ち、1つの分野に熱くなる人」という人物のようだ。
唯一、金正哲と直接会ったことのある2人の話から、麻薬にハマっては音楽に狂い浮世離れした金正哲という人物評は浮かんでこない。もっとも、優秀な青年で美男子というわけでもないのだが……。
金正哲の弟・金正恩は目下、健康上の深刻な問題を抱えていることは間違いない。死ぬことは無くても、統治活動を継続することが出来ない状況に陥って、妹・金与正がすべての権力を引き継がなければならないのなら、兄・金正哲も同様にそうなることだろう。
具体的には、金与正が党と軍を治め、それ以外の保衛、社会的安全性、司法部門などについては金正哲が制御する役割を担うのではないかと思う。ここ最近、北朝鮮が突発的かつ極端な対韓挑発を繰り返したのは、金与正および金正哲が軍部とその他の武装集団や幹部から忠誠の誓いを受けなければならないからだ。北朝鮮住民の支持も言うまでもない。
金与正は、すでに軍と党を掌握する過程を終えている。一方で、金正哲が政権の右腕たるには、まだまだ時間が必要だろう。
今回、なぜ金正哲が政治局委員より低いポジションである党中央委員会候補委員に就任したのか。では逆にそういった地位ではなく、相当なポストで表舞台に登場したなら世界はどう捉えただろう。おそらく、金正恩の健康問題がかなり深刻だと認識するに違いない。北朝鮮としてもそれは避けたかったのである。
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