金正恩後継は「与正」有力と断じるのは時期尚早 他に3人もいる候補者の名前
繰り広げられる勢力争い
東亜日報(日本語電子版)は6月18日、「軍動員力まで見せた金与正氏、後継者論が浮上」の記事を配信した。
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《北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が最近、対南事業を総括して国政の前面に出ていることから、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長の健康不安説が再び浮上している。正恩氏が権力を継承する過程で、北朝鮮が哨戒艦「天安(チョンアン)」の沈没、延坪島(ヨンピョンド)砲撃を強行したことからも、与正氏の後継者構図を本格化するのではないかという分析も出ている》
金与正は1987年9月生まれの32歳。父は金正日[キム・ジョンイル](1941~2011)、母は高容姫[コ・ヨンヒ](1952~2004)。金正日には7人の子供がいるとされ、金与正は四女にあたる。
2018年に平昌オリンピックが開催された際、金与正が会場を訪れて話題となったことをご記憶の方もおられるだろう。
朝鮮労働党ではナンバー2とされ、オリンピックの訪問団長を務めた金永南[キム・ヨンナム](92)が仁川国際空港の貴賓室で彼女の到着を待ち、中央席を譲ろうとした。このことから与正が「血族の権威」の持ち主だと注目されたのだ。
その後も、兄の金正恩(36)を補佐する姿が報道されてきた。ところが6月に入ると、従来のイメージとは異なる“強硬派”に豹変、一気に世界中の関心が高まった。
まず6月4日。韓国在住の脱北者団体が北朝鮮を批判するビラをアドバルーンに載せて飛ばした行為に対して談話を発表。その口汚さが注目された。念のため一節だけご紹介しよう。
《生まれた祖国を裏切った獣にも劣る人間のくずが人間の真似をしてみようとせいぜいすることがあの行為なのだから、汚い口をつぐまず吠え立てる連中に対して雑犬だと言わざるを得ない》
他の部分も似たような調子なのだが、話はこれで終わらない。13日には、開城工業団地内にある南北共同連絡事務所の爆破を予告し、16日に“有言実行”された。
北朝鮮の国営メディアが発表した、爆破の瞬間を映した動画や写真をご覧になった方は多いだろう。強烈な爆風や黒煙が湧き上がり、事務所が木っ端微塵に砕ける様子に驚かれたに違いない。
こうして彼女は世界に強烈な“リーダーシップ”を見せつけた。韓国で「金与正後継者説」が報じられただけでなく、日本のメディアも追随することになったわけだ。
だが、北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授は、「金与正氏を後継者に担ぎ上げようとする勢力があるのは事実ですが、現在の北朝鮮は激しい権力闘争が行われている真っ最中と見るべきでしょう」と分析する。
言っておくと、そもそも「金与正後継者説」は、「金正恩健康不安説」が広まったために流れたものだ。
「北朝鮮は昨年2月22日に在スペイン大使館が襲撃され、面子が潰されました、2月27日と28日にベトナムのハノイで米朝首脳会談が開かれましたが、こちらも物別れに終わっています。年頭に外交面で立て続けに大きな打撃を受けた北朝鮮は、襲撃事件に関与したスパイのあぶり出しや、米朝首脳会談を成功させることのできなかった関係者の処分などに奔走していました。結果として、内政を重視した1年となりました」(同・重村教授)
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