太宰治の命日「桜桃忌」にちなんで…他の近代作家と違って若いファンが多いのは?

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文スト、かっこいいですよね

 大学生のカップルにも声をかけてみた。

「文スト(『文豪ストレイドッグス』=文豪たちが活躍する漫画)から入って好きになりました。かっこいいですよね」

 近年、『文スト』のような漫画、『文豪とアルケミスト』のようなゲームなどのヒットによって、文豪ブームが起き、改めて文豪の作品が注目されている。

 そのようなこともあってか、文学の危機が叫ばれるなかでも、古典文学である太宰治は、新陳代謝を繰り返し、新しい若い読者を獲得している。それこそが、時代の試練に耐えうる、普遍的な文学であることの証左であろう。

 前段、「大人になったら太宰を読まなくなりがちだ」という発言を紹介した。したがって若いファンばかりなのではないか、という疑問が生じる。だが、これは違うのではないか。大人になっても太宰を読むファンはいるし、何より、若い新規読者を獲得することが1番難しいのである。その入口突破を太宰文学はやすやすとやってのけるのだから、これはもう凄いとしかいいようがない。それはやはり、太宰治の文学の青春性にあるのだろうと思うが、それは大人になったらわからないものなのだろうか。そんなことはないはずである。

 太宰文学の青春性は、言わずもがな、自意識との葛藤にあり、それが思春期との相性がよいのはわかるが、太宰文学の魅力はそれだけではない。むしろ、女性視点での語り口の軽やかさや、ユーモア、文体の現代性など、自意識が抜けたころに読むと色々見えてくるものがある。それもまた、太宰文学の魅力のひとつなのである。

神田桂一(かんだ・けいいち)
1978年、大阪生まれ。関西学院大学法学部卒。カルチャー記事からエッセイ、ルポルタージュまで幅広く執筆。今年、台湾に関する紀行ノンフィクションを刊行予定。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社=菊池良と共著)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月22日掲載

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