「漫画村」摘発後も消えぬ海賊版サイト 『ラブひな』作者「はらわたが煮えくり返る」

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腱鞘炎になるほど…

 そうした“将来”への危機感を踏まえて、業界ではこれまで、さまざまな対策を行ってきたという。

「以前の海賊版は牧歌的なもので、日本のサーバーやプロバイダーを使っていたため、注意されれば止める、というレベルでした。それが本格的な犯罪ビジネスとなってきたのは、2010年頃からでしょうか」

 と語る伊東座長は出版最大手のひとつ、「集英社」の社員として自社作品の海賊版対策に携わっているが、

「当初は私1人で、各海賊版サイトなどに削除要請を行っていました。しかし、サイトも掲載される作品数も増える一方。最高でひと月6千件の削除要請をしたことがあります。月に20日勤務するとして、1日300件。さすがに腱鞘炎になりました」

 その後、FacebookやTwitterなどのSNSや、YouTubeに作品を無断でアップする人が増え、それへの対応も迫られる。こうした海賊版の跳梁に伴って、各社は自前の対策では間に合わず、侵害対策会社に業務を委託するケースが多くなった。出版社30社の合計で、年間200万件ほどの削除要請を行い、それに応じない悪質なサイトには、対策会社からサーバーやプロバイダーにも要請するなどして対応しているという。それでもダメなら、

「法的措置に出る場合もあります。しかし、海賊版はみな、日本ではなく、海外のサービスを使っているんです。海外で法的アクションを起こすと、弁護士費用などであっという間に数百万円単位のお金がかかる。削除せよ、との要請に応じないのであれば、現地の国で裁判を起こすしかありません。しかし、例えば、ウクライナやカザフスタンで裁判を起こすとなると、それはまた大変ですから、断念せざるを得ないこともある。1個のサイトを潰すのに、500万~1千万円かかるとして、それを20個潰せば終わりが見えてくるのなら頑張りますが、1個潰せばまた新しいのが出てくるという繰り返し。なかなか追いつかない」(同)

 実際、海賊版サイトの摘発逃れの手法は手が込んでいる。

 例えば、「MioMio」という海賊版サイトは、中国で運営されていた。そこで日本サイドが中国で行政処分を求めたところ、それを避けるため、すぐに中国国内で見られないようにサイトをブロックしたという。

 あるいは、「Anitube」なるサイトは、運営者はブラジル在住、サーバーはアメリカ、ドメイン登録はスウェーデン、メインの視聴者は日本人という、実に複雑な形をとって、追及の手を逃れようとしていた。両者とも既に閉鎖されたが……。

 前出、書籍出版協会の川又部長も言う。

「こうして出版社は年間200くらいのサイトを潰しています。それでも、いたちごっこのように新しいサイトが出来るので、数が減っているという感覚はまったくありません。何年経っても常に同じ数の海賊版サイトがあるというイメージです。悪質なサイトについては、刑事罰を与えるべく、警察と連携して動いていますが、摘発までは1~2年もかかるというイメージ」

 その間にも、権利の侵害は確実に進んでいくのである。

「私の会社では、売れ筋のものを中心に、年間100万円超を掛けて海賊版対策をしていますが……」

 とは、冒頭の中堅出版社のマンガ編集者。

「対策業者は、AIを用いて24時間365日、web上をパトロールする。そして、権利侵害があれば、自動的に削除要請を行うのです。実際に削除されるのは7割くらいでしょうか。それでも漏れたサイトについては、手作業で行っています。問い合わせ窓口がどこか調べ、そこに英語で削除要請を送り、無視されればまた送り……の繰り返し。年間100件にもなるでしょうか。大変な負担です」

 が、それでも対応せざるを得ないという。

「金銭的な被害もそうですが、海賊版が放置されているとわかれば、著者の執筆意欲が下がると同時に、出版社の信頼にも関わる。それは確実に作品に響いてきます。また、若手の作家にとって、次の作品を生み出せるかどうかは、単行本や電子版がどこまで売れるかの数字にかかっている。逆に言えば、海賊版によって、部数やダウンロード数が下がれば、その作家の未来が断たれる可能性もあるのです。そして何より、海賊版を放置することは、きちんとお金を出して買ってくださる読者の方々に対して、申し開きが立ちません」(同)

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