新型コロナでルール変更 「阪神」「ソフトバンク」が有利になる理由

スポーツ 野球

  • ブックマーク

 いよいよ6月19日に開幕した今年のプロ野球ペナントレース。新型コロナウイルスの感染拡大で大幅に開幕が遅れたことで例年とは異なる点も多いが、大きな影響が出るのは日程面と選手登録の二つだ。それぞれポイントをまとめると以下のようになる。

【日程面】
・143試合から120試合に変更
・セパ交流戦の中止
・オールスターゲームの中止

【選手登録】
・出場選手登録の増加(29人→31人)
・ベンチ入り選手の増加(25人→26人)
・外国人枠の増加(4人→5人。ただしベンチ入りは4人まで)

 このようなルール変更で果たして有利になる球団はどこになるのか。現状の戦力から探ってみたい。

 まず、日程面だが、試合数は減ったものの開幕が大幅に遅れたことで相当過密なスケジュールとなっている。基本的に常に6連戦となっており、2日続けて試合がないケースは数えるほどしかない。例年でも、雨天中止が増えるとシーズン終盤は大型連戦となることも珍しくないが、今年はさらにそういうケースが増えることになるだろう。そうなってくるとまず有利になりそうなのがドーム球場を本拠地としているチーム、セ・リーグであれば巨人、中日の2球団、パ・リーグであれば西武、ソフトバンク、日本ハムの3球団だ。ホームゲームを順調に消化できるという点はプラスに働く可能性が高い。

 次に影響が出てくるのはやはり投手、特にリリーフ陣のやりくりだ。昨年、西武は頼れる中継ぎが少なく平井克典がパ・リーグ記録となる81試合に登板したが、終盤は疲労から明らかに本来の投球ができていなかった。昨年の西武は強力打線で何とかカバーして優勝を飾ったものの、過密日程となるとリリーフに豊富な戦力を誇るチームが有利になることは間違いないだろう。そこで昨シーズンの救援投防御率を並べてみると以下のようになっている。

【セ・リーグ2019年救援防御率】
阪神:2.70
中日:3.32
広島:3.63
巨人:3.68
DeNA:3.80
ヤクルト:4.42

【パ・リーグ2019年救援防御率】
楽天:3.07
ソフトバンク:3.24
日本ハム:3.47
ロッテ:3.68
西武:3.88
オリックス:4.23

 セ・リーグでは阪神がダントツの数字を誇っているが、ジョンソンとドリスという二人が抜けたことと、藤川球児、能見篤史の大ベテランに頼っていることを考えると成績が下がる可能性が高い。2位の中日は、昨年最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得したロドリゲスが抜けたことは大きなマイナス要因だ。ただ、それでも阪神はシーズン終盤にリリーフで好投を見せたガルシアが存在感を示しており、中日もまた若手投手陣の底上げが進んでおり、抜けた選手の穴はある程度カバーできる可能性が高いだろう。

 一方のパ・リーグは楽天がトップの数字をマークしているが、不動の抑えだった松井裕樹が先発に転向した影響は大きい。新外国人のシャギワ、メジャーから復帰した牧田和久、ルーキーの津留崎大成などがポイントとなりそうだ。そういう意味ではやはり盤石に見えるのがソフトバンクだ。昨年ルーキーながらフル回転した甲斐野央が故障で出遅れているが、森唯斗やモイネロ、嘉弥真新也などの実績組に加えて楽しみな若手が次々と飛び出してきている。12球団を見ても投手陣の充実ぶりは群を抜いている印象だ。

 次に選手登録の面だが、こちらで大きいのはやはり外国人枠の増加だ。ベンチ入りできるのは4人までと変更はないが、登録抹消せずに常に5人をやりくりできる点は非常に大きい。ちなみに6月18日時点で支配下登録されている各球団の外国人選手の人数は以下の通りとなっている。

【セ・リーグ外国人選手】
巨人:7人(投手5人 野手2人)
DeNA:6人(投手3人 野手3人)
阪神:8人(投手5人 野手3人)
広島:7人(投手5人 野手2人)
中日:6人(投手3人 野手3人)
ヤクルト:5人(投手4人 野手1人)

【パ・リーグ外国人選手】
西武:5人(投手3人 野手2人)
ソフトバンク:7人(投手5人 野手2人)
楽天:6人(投手3人 野手3人)
ロッテ:6人(投手4人 野手2人)
日本ハム:5人(投手3人 野手2人)
オリックス:6人(投手3人 野手3人)

※ソフトバンクのバレンティンなど、外国人枠を外れている選手は除く

 まず、セ・リーグで目立つのは12球団で最も多い8人の外国人選手を支配下登録している阪神だ。しかし、ここまでのオープン戦、練習試合を見ていると安定しているのは日本で実績のあるガルシアとスアレスだけという状況。クリーンアップに外国人三人を並べた打線も、もうひとつ機能しているようには見えない。登録枠の恩恵を上手く生かすことができる可能性は低いと言わざるを得ないだろう。

 そうなると、浮上してきそうなのが広島とDeNAだ。広島は練習試合絶好調のメヒアと、新外国人で内野も外野も守れるピレラの野手二人を常に一軍登録できるようになることがまず大きい。投手陣もK.ジョンソンが先発しない日はベンチから外し、フランスア、スコット、DJ.ジョンソンの三人のうち二人をリリーフで起用することも可能になる。昨年の救援防御率も決して悪くないが、そこから上積みが期待できることは間違いないだろう。

 DeNAはソト、ロペスの実績ある二人に加えて抜群の長打力を誇るオースティンが加わり野手の層が厚くなった。新外国人のピープルズが先発の時は一人を抹消せずにベンチ外にすれば、中継ぎの枠も減らさずに運用することができる。広島と同様に日本で実績のある外国人が多いというのも心強い。

 一方のパ・リーグだが、こちらはやはりソフトバンクが目立つデスパイネ、グラシアルという実績十分の野手二人を常に出場させながら、投手の枠として3人を活用することができるのだ。勝ちパターンの中継ぎであるモイネロは決定的だが、先発の枠にバンデンハークと新外国人のムーアが入るのが基本線となりそうだ。どちらかが調子を落とせば、来日2年目のスチュワート・ジュニアが満を持してデビューすることも考えられる。外国人戦力の充実ぶりも見事という他ない。

 トータルすると、セ・リーグでは元々リリーフの強い阪神、苦しくなる中継ぎ陣に外国人枠を活用できそうな広島とDeNAにプラス要素が多いように見える。またパ・リーグは元々前評判の高いソフトバンクが更さらに有利になりそうだ。また、シーズン開幕が伸びたことで、新外国人の獲得とトレード可能期限が例年の7月末から9月30日まで延長となっている。シーズンが開幕した後に補強に動く球団が出てくるかにも注目したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月20日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。