「山本太郎」参戦、“組織がまとまれば勝てる”とは言えない都知事選事情

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学級委員選挙と投票率

 小学校の学級委員選挙を思い出すと、当選する児童には、大方、次のような傾向があったはずだ。

「足が速くてスポーツ万能」「賑やかしでクラスの人気者」「美人でも気が強くハキハキ」「文武両道でリーダー的存在」

 あくまでも、筆者の実体験に基づくことだが、「優等生のガリ勉タイプ」が学級委員に選ばれることは、ほとんどなかったように思う。もちろん、掛け算もできないような落ちこぼれが選ばれることもなかったとは思うが、児童が一票を投じる基準は、学業の成績よりも「気質」や「性格」が、重視されがちだったのではないか。

 そこで都知事選である。先にあげた3人の無所属候補(青島幸男、石原慎太郎、小池百合子)のいずれも、有力な優等生タイプを打ち破って、組織票をものともしなかった。ここでいう組織票は、「担任教師のお墨付き」と近似するのかもしれない。一票を投じることで、担任の思惑すらもひっくり返してやろうという、子供なりの山っ気が反映される数少ない場が学級委員選挙ということだ。

 事実、筆者も小学生時分、結果を目の当たりにした担任教師が、黒板に記された正の字の投票結果を眺めて、「こうなったか……」と意外そうな嘆息を漏らしたのを、幾度か目に留めている。教師の評価と必ずしも一致しないのは、学級委員選挙の醍醐味と言っていい。

 青島、石原、小池の三者が、学級委員さながらに、都知事になって何を成し遂げたかについては、ここでは論じないが、「気質」をいかし切った結果が、東京都民1400万人のトップに立った事実だけは、動かしようがない。

 となると、今回の山本太郎の出馬は大いに首肯できる。むしろ、「出るべくして出た」とさえいえる。注目なのは、現職の都知事も根っからの学級委員気質であることだ。学級委員の申し子同士による熾烈な争いである。

 もっとも、コロナ禍が収束に向かいつつある現状は、その指揮官たる小池百合子に追い風で、下馬評は圧倒的に小池優勢だ。しかし、『女帝 小池百合子』(石井妙子著/文藝春秋)の大ヒットで逆風が吹きつつもある。かといって、対抗馬が追い風を起こせるかどうかも未知数だ。野党共闘の推す市民派弁護士も根強い人気がある。

 そんな中、重要になってくるのは、投票率だ。学級委員選挙の投票率は100%(※学級委員選挙は、基本的に欠席者のいない日に行われる)。一方の都知事選は、前回は60%を割って、前々回は50%を下回っている。今回もし、「学級委員選挙」に肉薄するほど投票率が跳ね上がれば、勝負の行方は見えなくなってくる。

 とにもかくにも、東京都民であるならば、この催しに参加しない手はない。「学級委員選挙」は、運動会や席替えと並ぶ、担任教師をも巻き込んだ一大イベントなのだから。(文中敬称略)

細田昌志
著述業。鳥取県出身。CS放送「サムライTV」でキャスターをつとめたのち、放送作家に転身。その後、雑誌、WEB等に寄稿。著書に『坂本龍馬はいなかった』(彩図社)『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか?』(イースト新書)がある。現在、メールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」にて「プロモーター・野口修評伝」連載中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月18日掲載

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