大炎上「美術館女子」プロジェクトをなぜ読売新聞が始めたか 美術展の不都合な真実

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ネットでたちまち炎上

 6月13日の読売新聞朝刊(東京版)に「AKB48×美術館」の見出しで、「東京都現代美術館×小栗有以 AKB48チーム8」と題されたカラー記事が掲載された。AKB48のメンバーでアイドルの小栗有以さんが、この美術館を訪れて感じたことが綴られている。彼女が巨大な彫刻、アルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」を背にして立つ大きな写真も見ることができる。

「私自身、これまでそんなに美術館に遊びに行ったこともなければ、絵画に詳しいわけでもない。

『芸術って難しそうだし、自分に理解できるのかな』。そう思っていた。

 ただ、そんな気持ちは展示室に足を踏み入れた瞬間、吹き飛んだ」

「私を含め、いま若い女性は『インスタ映え』に夢中だ。だけど、生まれ育った東京、しかもこんな身近な場所にこれほど贅沢(ぜいたく)な“映えスポット”があるなんて、どれほどの女子が知っているだろう」

 小栗さんによる文章が「足を運んで初めて分かる。アートって、すごい。」と締められたあと、読売新聞による解説文が続く。

「全国約150の公立美術館で作る『美術館連絡協議会』と読売新聞オンラインは新たなプロジェクトをスタートする(略)

 読売新聞で『月間チーム8』を連載中のAKB48チーム8のメンバーが各地の美術館を訪れ、写真を通じて、アートの力を発信していく」

 このプロジェクトのネーミングは「美術館女子」。同紙としては力の入った前向きなプロジェクトのはずだったのだが、SNSなどでさまざまな反響を呼び、いわゆる炎上状態になってしまう。

「美術館男子もいる」

「ナントカ女子なんてカビが生えた企画」

「美術に興味のない人に、アイドルを通じて興味を持ってもらう狙いは分かるが、結局男性向きになりそう」

「美術館・アートの本来の魅力が伝わってこない」

 アート情報のポータルサイト「美術手帖」の橋爪勇介編集長は、ツイッターで「『美術館女子』の問題点は主に (1)ジェンダー公平性に著しく欠ける (2)美術館や作品を『映え』の道具として扱っている」と指摘した。

 なぜ「女子」をことさら強調するのか。また美術を「映え」云々で捉えていいのかということだろうか。

なぜいま読売新聞が?

 著名なアイドルや俳優が、まもなく開幕を迎える美術展を紹介する記事は珍しくないが、「美術館女子」は彼女らが各地の美術館を訪れて魅力を発信する企画だという。なぜ読売新聞は、このようなプロジェクトをいまになって始めたのだろうか。

 数多くの展覧会企画に携わった経験をもとに『美術展の不都合な真実』(新潮新書)を著した、日大芸術学部教授の古賀太氏はこう語る。

「『美術館女子』からは読売の必死さが伝わってきます。日本ではメディアが美術館や博物館の企画展スペースを借り、主催者となって『美術展』を開催してきました。その日本方式の主軸のひとつが読売新聞です。

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、全国の美術館、博物館が長い閉館を余儀なくされています。もちろん読売の関わる美術展も大きな影響を受けており、その最たるものが2020年春の目玉と期待されていた『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』(国立西洋美術館)です。本来3月頭に開幕するはずがかなっていません。

 幸いにも今月18日に改めて開幕、大阪にも11月に巡回と発表されましたが、大きく異なるのは今後は入場が日時指定制になることです。これまで美術展の大混雑はいわば当たり前でしたが、これからはお客を会場内にめいっぱい詰め込んで、入場料を稼ぐビジネスが成立しなくなる」

 それゆえに、とにかく人々の関心を美術館へ向けたいということか。古賀氏は続ける。

「読売が事務局となっている『美術館連絡協議会』に名を連ねる150の公立美術館も、事情が苦しいのは同じでしょう。ただし、観る側にとっては良い面もあるのです。開館後にはソーシャルディスタンスを取りながら、以前よりも落ち着いて名画や名作を見ることができるでしょう。また業界の誰もが疑問に思いながら続いてきたしくみや慣習も、きっとこの機に見直されていくでしょう」

 小栗さんの記事は「美術館女子」の1回目のようなので、今後も同趣向のものが紙面に載る予定のようだ。意図せぬ形で人々の注目を集めてしまったキャンペーン、次回はどのような内容になるのだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年6月17日掲載

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