湘南「海の家」へのコロナ規制 海水浴場が無法地帯化する恐れも

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 青い空と強い日差し、吹き抜ける風。コロナウイルスと最も無縁に思える東京近郊の海辺が、今年は閉鎖されるというのだ。

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 湘南の海には来ないでいただきたい――と、神奈川県の黒岩祐治知事が連呼するのが、耳に残っている向きも多いと思うが、GWの人の動きを牽制するには、当然のアナウンスだったともいえる。我慢した分、この夏こそ湘南に――と考えた人もいただろう。

 ところが、昨夏も計320万人が訪れた、湘南海岸をはじめとする神奈川県内の25の海水浴場が、今夏はすべて閉鎖されるというから、ただごとではない。

「緊急事態宣言の解除後の5月末、県はガイドラインを設け、海の家は完全予約制にし、椅子やテーブルの間隔を広げて換気や消毒も徹底したうえで、砂浜に一定の間隔で目印を設けることなどを求めた。黒岩知事自ら“厳しめにした”と言っていました」

 と話すのは湘南地区の担当記者で、開設が禁じられたわけでも、自粛を求められたわけでもないが、

「県のガイドラインが出ると一斉に、“こんな情けない決まりじゃ無理だ”という話になりました」

 と、江の島片瀬東浜海岸の臼田征弘組合長。

「あれに則るかぎり、やればやるほど赤字だから。海の家は1軒建てるのにかなりの金額がかかるのに、たとえば50坪あっても、県のガイドラインだと、うち20坪くらいにしか人を入れられない。それじゃ採算はとれません」

 鎌倉市の由比ガ浜海水浴場に海の家をもつ、神奈川県海水浴場組合連合会副会長の増田元秀氏も嘆く。

「完全予約制はたいしたハードルじゃない。ソーシャルディスタンスが大変です。由比ガ浜は、800メートルの海岸線に椅子を並べて800席、波打ち際から海の家まで40メートルだから、40列で3万2千人。それだけの人が座るところに、どうやって印をつけるわけ? しかも砂浜に? どうやってそこに誘導するわけ? それじゃ無理だと、ビーチの管理者の県に対し、期間限定で借りる鎌倉市が断りを入れたんです」

 そして、こう続ける。

「専業の方は路頭に迷う可能性もありますね。去年の6月はまだ海の家の売り上げがないから、持続化給付金も(事業収入が前年同月比で、50%以上減った月が存在する、という条件なので)まだ申請できない」

 増田氏によると、さらに別の問題も生じる。

「海水浴場を開設する場合は、コースロープを入れたり、ライフガードを配置したり、遊泳エリアを規制したりできるけど、それらがなにもできず、無法地帯ができあがります」

 臼田組合長も、

「なによりも心配なのは、野放しになること」

 と、こう言葉を継ぐ。

「海自体は立ち入り禁止にならないけど、ブイを張ってもいけないので、酔っ払いがどんどん沖に出ていくかもしれない。屋根がなくて、熱中症になる人も出るでしょう。置き引き防止やごみ捨て禁止の放送も、僕らは毎年しているんだけど、一切できなくなる」

 ライフガードを出すかどうかなど、各市が検討しているとはいうが、そもそも臼田組合長はこう訝(いぶか)しむ。

「海の家はがらんどうで、風がこんなに入ってくるし、人と人がちょっと離れていれば、そんなに影響はないと思っていました」

 実際、海は3密の定義のうち、密閉空間とは最も遠いはずだが、専門家の目には、海の家にも危険は伴うのだろうか。感染症に詳しい浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師が言う。

「ある程度、人と人との距離を空ける必要はあるとはいえ、厳密に1メートル以上空けるといった、屋内と同様の対策をとる必要はないと思います。屋外ですし、同じ屋外でもビアガーデンよりは換気がいいですから。それに閉鎖される海水浴場が多いと、海の家が営業している観光地が混む恐れもあります。完全予約制をやめるなど、ある程度緩和してもいいように思います」

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